2030年、日本の半導体産業は消滅する!?
日本の経済産業省によると2001年に20兆円規模だった半導体市場は20年に50兆円、30年に100兆円に拡大すると予想される。1988年日本のシェアは50%を超え、NEC、東芝、日立製作所、富士通、三菱電機、パナソニックが売り上げランキングのトップ10入りしたが、2019年にシェアは10%まで落ち、30年には消滅しているとの悲観シナリオすら囁かれる。
半導体製造装置、ウェハー製造、素材分野で日本の強みは残っており、米半導体産業協会によると日本の21年世界シェアはそれぞれ27%、16%、14%*。米中技術覇権争いを背景に米国の国内製造回帰の動きが活発化する中、製造装置・素材産業の海外移転が進む恐れもある。海外の先端ファウンドリTSMCの熊本進出には日本の半導体産業の生き残りがかかる。
*筆者注:野村証券のデータをもとに作成された経済産業省資料では装置分野の日系シェアは塗布装置9割、CVD装置(薄膜形成装置の一つ)3割、エッチング装置3割、素材ではシリコンウェハー6割、レジスト7割、封止材8割と、米半導体産業協会のデータより日本のシェアは高くなっている。
オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLはEUV(極端紫外線)露光装置で100%のシェアを誇る。中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」英語版は「米国が半導体分野で欧州に中国を抑圧させようとするのは完全に地政学的な計算だ。世界経済はワシントンの“シリコンの鉄のカーテン”が引き起こす新たな危機に直面している」と猛反発している。
「半導体産業にとって最大の挑戦は米中対立の激化」
日本でも今月15日に発売される『半導体戦争―世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』の著者クリス・ミラー米フレッチャー法律外交大学院准教授は昨年10月、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで講演。「過去75年間の経済的進歩、軍事力、政治的変化の重要な原動力はコンピューターを小型化するための闘いだった」と指摘した。
1960年代前半、商業的に価値のある最初のチップには4つのトランジスタが搭載されていた。最新iPhoneのメインチップに搭載されるトランジスタはなんと150億個。「トランジスタは今やコロナウイルスより小さい。iPhoneのチップを作ろうと思ったらオランダ1社、米国3社、日本1社の計5社が製造する装置を買わなければならない」(ミラー氏)
過去10年間で台湾海峡の軍事バランスは中国に劇的に有利になった。中国はアジアで軍拡を進め、より多くのミサイル、軍艦、艦船と戦闘機・攻撃機を保有するようになるのは避けられない。
「今日の半導体産業にとって最大の挑戦は米中対立の激化に由来する。中国は2014年以降、半導体産業の国産化におそらく数千億ドルをつぎ込んできた。米国は半導体の最先端技術に中国がアクセスするのをシャットアウトしようとしている」(同)
台湾海峡の軍事バランスとコンピューターの処理能力を巡る争いには深い相互関係がある。台湾海峡で何か問題が起きれば半導体産業だけでなくコンピューターの処理能力に左右されるすべての産業が脅かされ、世界にとって大きなリスクとなる。