「共に民主党」の李在明代表(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 2月8日、諸外国の“内務省”に相当する韓国・行政安全部の李祥敏(イ・サンミン)長官に対する弾劾訴追案が国会で可決された。国会で過半数を占める野党第一党「共に民主党」が、159人が犠牲になった梨泰院雑踏事故の責任を問うために提案し、与党「国民の力」の反対を押し切り、数の力で可決した。

 これによって、李長官は職務停止に追い込まれてしまった。警察を所管する行安部長官は当分の間、不在になることになる。

李長官の弾劾訴追に民主党内でも賛否両論

 弾劾の判断は憲法裁判所に委ねられるが、これまで国務委員(長官)に対する弾劾訴追は韓国の75年に及ぶ憲政史上前例がなく、また憲法上の弾劾要件である「重大な憲法・法律違反」を犯したことを理由とするものでないだけに、憲法裁での判断は予断を許さない状況である。

 今回の弾劾訴追案は、法制司法委員会での調査、審議を経ずにいきなり本会議に上程された。これについて、中央日報は、「弾劾案の可決は速戦即決で進んだ。民主党指導部が前日から所属議員らの本会議出席を確認しながら離脱票を防ごうとしたから」であると解説している。

 こうした行動について、民主党内からも批判の声が上がっていると同紙は報じている。

<民主党内でも無理な弾劾案強行に対する苦言が出てきた。重鎮の李相ミン(イ・サンミン)議員はこの日午前、中央日報のインタビューで「弾劾訴追要件の根拠が明確でなく、憲法裁判所で棄却される可能性が高いため、逆風も激しくなるはず」と批判した>(中央日報日本語版2月9日付)

 民主党内の一部に「李長官に対する弾劾訴追は困難ではないか」との見方があるため、国会での表決を急いだというのである。

李祥敏・行政安全部長官(写真:YONHAP NEWS/アフロ)