在任中、ガス代の値上げを最小限にとどめていた文在寅氏(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(立花 志音:在韓ライター)

「お母さん、寒い。ボクの部屋だけ暖房入ってなくない?」

 冬休み中の深夜、ゲーム真っ最中のはずの息子が、5時間ぶりに部屋から出てきた。

「うーん入れてあげてもいいけど、その前に何か着たら?」

 寒いと言って出てきた息子の姿は、いつものことではあるが、半そで短パンだったのである。そして3歳から使っている太陽と海のマークがついたタオルケットをマントのように巻いている。

 筆者がライナスの毛布と呼んでいるそれは、もうボロボロで先月もどこかを繕った。令和の時代に夜なべで繕い物をする主婦は、どのくらいいるのだろうか。少なくとも韓国にはほとんどいないだろう。

 最近の韓国はエコを叫びながらも、服から家具まですぐ新しいものを買う。息子は誰に似たのか、スマホやPC機器以外は新しいものを好まない。

 日本で買った愛着品コレクションはタオルケットだけではない。いい加減捨てた方がいいのではないかと思うものもあるが、新渡戸さん一枚で買ったタオルケットのおかげで、息子はここまですくすく育った。

「ワカッタ、ケドサムイー」

 棒読みのセリフを残して、息子はレンジでチンした牛乳と共に部屋に戻って行った。

「飲み終わったら、台所にコップ戻してね! 洗えとは言わないから!」

 筆者が言い終わる前にパタンとドアが閉まる。

 この国では3月2日に新学年が始まるまで、冬休み兼春休みで、立春を迎えても朝は氷点下の日が続く。

 冬場の暖房は、オンドルと呼ばれるガス式の床暖房が使われている。エアコンに比べたら、温まるまで時間がかかるかもしれないが、一日中暖かく非常に快適だ。ソウルの冬は特に厳しく、体感温度がマイナス20度になることもあるが、家の中にいれば足元が冷えることもなく、そんなに厚着をする必要もない。

 筆者は生まれた時から木造2階建ての家で育った。冬の朝、布団から出るほど嫌なことはなかった。自分の部屋を持ってからは、起きる時間に合わせて灯油ストーブのタイマーを設定して、灯油がなくなると寒い納戸に灯油を入れに行くのが嫌だった学生時代だった。このような思い出があるのは筆者だけではないだろう。

 今はソウルから高速道路を3時間南下した地方に住んでいる。住まいも鉄筋コンクリート造りで、日当たりも良いマンションなので、朝と晩に一時間くらいガス暖房をつければ暖かく毎日を過ごすことができる。

 しかしこの冬、韓国では都市ガス料金の急激な値上がりが、物価上昇とともに、市民の生活を圧迫している、という報道が非常に多く見受けられる。