(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
2月6日、トルコ南部、シリアとの国境近くを震源とする非常に大きな地震が発生した。それから1週間以上が経過し、トルコとシリア両国での死者は4万人を超えてしまったようだ。世界保健機関(WHO)は両国の被災者の数がおおよそ2600万人に上るという見方を示しており、日本からも国際緊急救助隊が派遣されている。
この未曽有の惨事を受けて、トルコで5月14日に実施される予定の国政選挙(大統領選と議会選の同日選挙)が延期される可能性が高まっている。トルコの憲法では、国政選挙の延期が可能となるのは戦争の場合に限ると78条に明記されている。しかし、選挙管理委員会(YSK)が実務上の観点から無理だと判断すれば、延期は可能なようだ。
もともとトルコの国政選挙は6月18日に行われる予定だったが、1月中旬、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は1カ月前倒しで行うと発表した。6月には多くの国民が夏季休暇を取るため、選挙を実施するのに相応しくない日程だというのが表向きの理由のようだが、エルドアン大統領の本当の狙いは定かではない。
今後もしばらく、地震が起きたトルコ南部とシリアの国境近くの間では、余震が続くものと予想される。人命救助の後も、仮住まいの建設にがれきの撤去など、やらなければならないことは山積している。こうした環境下、あえて5月14日に国政選挙を強行すれば、エルドアン大統領に対する逆風が強まる事態となるだろう。
ロシアとウクライナの間で巧みに立ち回るエルドアン大統領
ここで話を外交面に転じたい。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した。それ以降、エルドアン大統領は巧みな外交術を駆使し、トルコは国際社会で存在感を高めてきた。2022年3月10日、ロシアとウクライナの外相が侵攻後に初めて対面で会話を行った際、仲介役を務めたのはトルコのメヴリュット・チャウシュオール外相だった。
国会を通じたウクライナからの穀物輸出の再開に関しても、トルコは国連とともにロシアとウクライナの仲介役を果たしている。トルコは欧米日など主要国による対ロシア経済・金融制裁には参加せず、ロシアと友好関係を維持してきた。エルドアン大統領はプーチン大統領とも個人的に親しく、ウクライナとの停戦を促している。
また、エルドアン大統領は2023年1月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とも電話会談を実施し、停戦にあたって仲裁役を担う用意があると改めて伝えた模様だ。ロシアとウクライナ、ひいては欧米日との対立に解決の糸口が見出せない中で、トルコのエルドアン大統領による仲介の試みには一定の評価がなされていいだろう。