「シリコンの盾」と「シリコンのカーテン」
米国の半導体工場がアジアに移転したのは労働コストが格段に安かったからだ。しかし台湾やシンガポールは半導体産業について経済的観点からだけではなく、安全保障上、米国の関心を維持する方法として重要視してきた。1970年代、ベトナムから撤退した米国はアジアにおけるコミットメントを縮小し、外交の軸足を台湾から北京に移した。米中国交正常化だ。
ソ連に対抗するため米国は中国との対立を避けるかもしれない。しかし米国向けに半導体を生産していれば台湾を守りたくなくても守らなければならなくなるはずという安全保障上の計算が働いた。「シリコンの盾」は台湾の安全保障の原点とも言える概念だ。台湾は10ナノメートル以下の半導体プロセスノードの世界シェアの92%を占めるまでになった。
台湾の最先端テクノロジーを乗っ取ろうとする中国の動きを加速させる引き金になるとの見方もある。バイデン政権は超党派の議会の支持を得て、戦略的競争相手の中国に米国の先端半導体技術を渡たさないよう輸出管理を強化する一方で、米国内の半導体製造能力の再建に取り組んでいる。米国はまさに「シリコンのカーテン」を閉めようとしている。
バイデン政権は昨年10月、半導体と製造装置の中国への輸出について米国の暗号解読や極超音速ミサイルの誘導といった軍事目的に使用する恐れがあるとして厳格な規制を課した。先月末には世界に冠たる半導体製造装置メーカーを擁するオランダと日本は米国と共同で最先端ハイテク装置を中国に輸出することを一部禁止することで合意したと報じられた。