ホスピタリティが消えた病院
Aさんがスタバで副業を始めて5年が経った。
いつの間にかスタバのバイトは、Aさんの生活に欠かせないものになっている。というのも、Aさんの本業がスタバとは真逆の世界だからだ。
「病院は忙しく、医師や看護師など医療スタッフは常にピリピリしています。僕たち事務スタッフは、医療スタッフと患者さんの両方から責められることが多く、気持ちのいい職場ではありません。過去には事務の間でイジメが起こったこともありましたね」
医療現場はどこも多忙を極めている。本来は病院こそ、ホスピタリティな場であってほしいが、それは難しいのが現実だ。
「スタバのようにスタッフ同士がお互いをホメ合い、お客さんを感動させようと心を配る職場は居心地がいい。病院のストレスをスタバで浄化しています」
一時は病院を辞め、スタバの社員を目指してフルタイムでバイトに入ることも考えた。しかし40歳を過ぎていたこともあり、それは諦めたのだという。
「いつか自分でカフェを経営できたらいいな」
密かにそんな夢を抱いているというAさん。今は客に「コーヒーください」と言われると、穏やかな視線を送りながら、コーヒーの味や風味を紹介しているという。
人見知りのAさんには、むしろ作為のない、自然な「おもてなしの精神」が備わっていたのかもしれない。