「東京から来た若いもんが草切ってる」
――熊本県小国町での9年間のフィールドワークの中で、移住者と地域とのあり方で感じたことはありますか。
嵩氏:目に見えないものは評価されにくい、ということでしょうか。
地域おこしは基本的に目に見えません。最初は私も「よくわかんないことやってるね」と見られていたようでした。
それが変わったのは、水害が起きた時のことだったと思います。私が拠点にしていた施設が避難場所になり、そこで住民のサポートにあたりました。一生懸命やったことで「ちゃんとやるやつやな」とわかってもらえたような気がします。
もう一つが草刈りです。廃線跡を活用するプロジェクトを立ち上げ、朝6時前から周辺の草刈りをしていました。すると周囲の方たちが「何か音がするけど何やってんだ?」「東京から来た若いもんが草切ってる」と。
草刈りに限らず共同作業は大事ですね。草刈り自体もさることながら、作業の後のダラっとしたおしゃべりも、地域の方と同じ時間を過ごすという意味で重要だと感じます。
――総務省が発表した2022年の人口移動報告では、東京都の「転入超過」幅が3年ぶりに拡大しました。新型コロナによる地方回帰の動きから、再び東京一極集中の傾向へと逆回転し始めたことが明らかになりました。
嵩氏:驚きはありません。そもそも転入超過数が落ちていた要因は、東京から地方へ出ていく動きが加速したというより、地方から東京に入る動きが鈍ったという要素が大きかったからです。感染症の懸念が和らぎ、地方から東京に移り住む動きがまた戻ってきた結果です。
ただ、東京から少し離れた場所に移り住むという傾向は、今後もそれほど収まらないのではないかとみています。リモートワークを含めて働き方が柔軟になったことや、東京の住宅価格が高騰しているということが理由です。
これは「郊外」のとらえ方が広域化した、といえるでしょう。