突如訪れる「鉄道の葬儀」

加藤氏:本来であれば、最初からやめるかやめないか、やめるなら代替手段をどうするかを含めてフラットに検討し、やめるとなった場合はその先の進め方がおおむねわかっているということになっていなければいけません。

 ところが多くの場合、やめることも選択肢に入れて検討すると、マスコミは「廃線を視野に」と報道するし、地域でも「ああ、廃線になってしまうのか」と思ってしまう。そのため首長としては、選挙が終わったとか、退陣を決めたとか、そういう政治的なタイミングでしか言い出せない。

 それまでに廃線後のことを何か決めるどころか、検討さえしていないというのがほとんどなのです。

 鉄道会社が廃止届を国に出せば、1年後に廃止できてしまいます。「敗戦」まで1年しかないのです。さらに、代替となるバスの車両を購入するにも半年はかかりますから、急に廃線が決まっても検討期間はほとんどありません。

 私は「鉄道の葬儀屋」と言われたこともあります。たしかに葬儀は急に行われるわけですから、当を得た言葉と言えるでしょう。

 地域のニーズに十分対応できるコミュニティバス路線を作ろうと思えば、最低でも1年、普通は2~3年かかります。ところが鉄道廃線の場合、代替交通の検討期間は半年もないわけですから、いいものを作れるわけがありません。

 それなのに「バスにすると利用が減る」と単純に言っている人がいます。代替交通検討に全くかかわったことがなく、実情を理解していない人の見解です。

 鉄道の存廃は、地域にとって最大級の危機なわけです。

 鉄道が存在し続けること自体を目的にしてはいけません。本当にその地域を良くしていこうと考えているのであれば、やめるか、やめないか、あらゆる可能性を視野に入れて徹底的に検討し判断する。

 やめるなら徹底して新しい手段を考える。やめないなら徹底してやめない方法を考える。それを訴えるのが、本当の政治家じゃないのかと思います。少なくとも、鉄道事業者や国に責任を押し付けて自分たちは何もしないという態度は論外です。

――2022年7月の提言では、「沿線自治体(特に都道府県)」が中心となって法定協議会を設置することを基本原則としつつ、これが機能しない場合には、一定の条件下で「鉄道事業者又は自治体の要請を受け、国が特定線区再構築協議会(仮称)を設置」すると記されました。この提言を受け、全国の自治体ではどんな動きが見られるでしょうか。