提言の線引きは「死刑宣告」にあらず

加藤氏:自治体は、もう国にケンカを売ったり、反発したりする段階ではありません。秋に見込まれる法施行を待たなくても、法定協議会は今すぐ立ち上げられます。今から始めていけば、制度と予算が固まるころには「うちでやらせてください」と手を挙げることもできます。

 逆に、鉄道事業者の要請を受けて国が協議会をつくったら、自治体は受け身になってしまいます。結局、自分たちが必要な公共交通を得ることができずに終わることでしょう。

 地域における未来の公共交通をよりよいものとするためには、そのあり方を前のめりに議論し、地域住民と一緒になって盛り上がっていく方がうまくいくものです。

 ネガティブにとらえられがちだった鉄道廃線が、今年の年末にはこれまでとまったく違う話としてとらえられるようになっていればと願っています。

――有識者会議の提言では、国が「特定線区再構築協議会(仮称)」を設置する路線の目安として「輸送密度が1000人未満、かつピーク時の1時間当たり輸送人員500人未満」という基準で線引きされました。

加藤氏:線引きを「死刑宣告」と報道したマスコミもありましたが、勘違いも甚だしいです。

 最初からあまりにもたくさんの路線が対象になると手が付けられなくなるので、まず深刻なところに絞って手を付けようというのが理由です。1000人未満であれば、全国で60カ所くらいです。まずは1県に1~2カ所くらいの規模から協議を進めていきましょうということです。

 そして、廃線ありきで議論が始まるわけではありません。どうするかを決める協議会ですから、最初から廃線ありき、存続ありきとすること自体がナンセンスです。議論の結果、鉄道にもっと投資をして便利にしていく方がいい場合も出てくることでしょう。

 三重県の三岐鉄道北勢線は、かつて近鉄が運行していた路線です。廃線も含めて真正面から議論した結果、10年間で55億円を投資して路線改善を図り、利用促進策も積極的に手を打ち、さらに、運営費の欠損についても地域がある程度負担すると沿線自治体が決断した結果、運営は近隣の三岐鉄道が引き継ぐという結論に至りました。そうした例もあるのです。

 ただ現実問題としては、「輸送密度1000人未満」という路線ではそうした鉄道再生の可能性は高くないと言えるでしょう。むしろバスにした方が、費用低減はもとより、利便性も高められることが多いと考えています。ちなみに先ほど挙げた北勢線は廃線検討時でも3000人に近い値でした。

――廃線となった場合、使わなくなった駅舎や路線はどうなるのでしょうか。