ビニールハウスのような生育環境の管理技術向上などもあり、多くの農作物が環境に合わせて栽培地を広げてきた(写真:アフロ)

地球温暖化によって農業に被害が出るという意見がある。たしかに一定の影響は出るであろうが、適応は十分に可能だ。農業とは本質的にテクノロジーの塊であり、品種改良などの技術を駆使して様々な気候に適応することこそが、その本領だからだ。前編ではさまざまな気候に適応してきた作物の事例を挙げた。後編となる今回は、いわゆる温暖化のデータを基に農業への影響を考えてみる。

◎前回記事「『北海道の米は不味い』はなぜ変わったのか?高い適応力を持つ日本の農業」から読む(https://jbpress.ismedia.jp/articles/gallery/73362)

(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

海流の変化だけで平均気温は1℃ぐらい変わる

 新潟県では、コシヒカリの高温障害が、台風通過に伴うフェーン現象によってたびたび起きている

「地球の平均気温はこれまで安定していたが、近年に急激に上昇している」とよく耳にする。けれどもこれはオーバーで、地球温暖化による気温上昇というのは100年間で0.7℃に過ぎない。30年間あたりなら0.2℃だ。これは人間が感じることのできない程度だ(ついでに言うと「地球平均」が本当かというのは議論の余地がある。だがここではこの点は問題にしない)。

 それよりも、局所的に見れば、我々はじつに大きな気温変動を経験している。

 日本近海には黒潮と親潮が流れている。これが東北地方から関東地方にかけての沖合でぶつかるが、その位置はしばしば変わり、そのたびに周辺の平均気温は1℃ぐらいは変わる。

 高温障害がよく報告されるようになったのは1990年以降だが、このころ、日本の気温はかなり上がっている。これは、地球温暖化の緩やかな傾向に、急激な自然変動が加わったためであろう。

 もっと長い時間軸で見ると、さらに局所的な自然変動は大きい。