三内丸山遺跡(写真)を含む北海道、青森県、岩手県、秋田県の17遺跡で構成する「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産にも登録され、歴史的価値が高い(写真:アフロ)

(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

漂うマルクス主義と平和主義の匂い

 青森県の三内丸山遺跡に行ってきた。縄文時代の出土品がきれいに整理されていて楽しむことができた。

 その一方で、長年、腑に落ちないことがある。「縄文時代には豊かな自然の恵みの下、人々は平和に暮らしました」という説明だ(例えば、NHK国際縄文学協会などの記事)。縄文時代がユートピアだったというわけで、この説は日本で広く共有されており、信じている人が多いと思う。

 だが常識的に考えて、豊かな暮らしなら、人口はどんどん増える。食料が足りなくなれば、どこかに縄張りを拡張してゆくしかない。他人の場所に入り込めば戦いになる。いわゆる「マルサスの罠」というものだ。

 さて日本の考古学界では、縄文時代までは戦争はなく、弥生時代になって戦争が始まった、とされてきた。考古学者の故・佐原真氏らが唱えたものだ。曰く、縄文時代までは狩猟採集をして獲物を分け合う平等な社会で、弥生時代になると米作などの農業が始まり、富の蓄積、搾取による貧富の格差、そして戦争が始まった、ということだ。

 この話を聞くとすぐに疑念が湧くのは、これがマルクス主義と平和主義の匂いを漂わせるからだ。