地球温暖化によって農業に被害が出るという意見がある。たしかに一定の影響は出るであろうが、適応は十分に可能だ。農業とは本質的にテクノロジーの塊であり、品種改良などの技術を駆使して様々な気候に適応することこそが、その本領だからだ。事例とデータを紹介しながら前後編に分けて解説していこう。
(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
地球温暖化を先取りしてきた東京
東京では過去100年間に約3℃の年平均気温の上昇があった。下のグラフは気象庁のデータによるもので、東京・大手町の気温である。以前の記事で紹介した吉祥寺(東京都武蔵野市)にある成蹊気象観測所のデータでも、ほぼ同じ気温上昇が観測されている。これは主に都市熱によるものだ。
グラフが配信先のサイトで表示されない場合は以下をご確認ください(https://jbpress.ismedia.jp/articles/gallery/73362)
これは今後心配されている地球温暖化の気温上昇のほぼ上限にあたる上昇幅とスピードだ。
都市熱では問題が起きなかった
このように、過去、都市熱によって急激に気温上昇した場所は多いが、農業に顕著な悪影響が出たという報告はほとんどない。
東京ではいまでも農業は盛んに行われている。キャベツやナシ、それに高温障害が懸念されているミカンや水田による米作も営まれている。
宅地への転用などで農地は減り、水田や畑ではなく宅地に囲まれたことで、気温は大きく上昇したに違いない。だが、それが農業に対して悪影響を与えたという報告を聞いたことはない。
以前、キャベツについて書いたように、種まきや収穫の時期が変わるなど、作型が影響を受けたことは間違いないと思われる。だが農家は、この程度の気温上昇には、ほとんど意識もせずに適応してしまったのだ。
どうしてそのようなことが可能だったのか。