言語は体で感じるもの

「アフリカの言葉はリズムが面白いんです。『ン』や『ム』で始まる単語が非常に多く、例えば『僕のうちにおいでよ』は、『ヤーカ・ナ・ンダコ・ナ・ンガイ』。喋っているだけで歌を歌っているようです。リンガラ語で会話の練習をしていると、アフリカが自分の中に入ってくる感覚がして。言語は体で感じるものだということを初めて知りました。

 語学って、文化とか歴史とか政治とか、背景まで全部“込み”なんですよね。コンゴでフランス語が公用語になっているのも、植民地支配という歴史背景があるから。フランス語、とか、スペイン語、とか、語学だけをポンと取り出して学べると思っている人も多いんですけど、本当は、背景とセットで学習したほうが、体に入ってくる。

 ニュースで市民がデモをしているのを見て、シュプレヒコールで何を叫んでいるのか、掲げたプラカードに何が書いてあるのか、わかるのとわからないのとでは、リアリティが違う。そういうニュアンスのようなものは、世界と関わろうとするときにとても大事だと僕は思うんです」

筆者の高野秀行氏は、文化や歴史、政治といった背景とセットで語学を学ぶことを推奨する

 リンガラ語、ボミタバ語、タイ語、シャン語、ビルマ語、ワ語・・・。辺境の地での高野さんの探検の記録は、そのまま語学の習得の記録だ。面白いのは、これほどまでに世界のあちこちで現地の言葉を話してきたにも関わらず、最も得意な英語では「ネイティヴが普通のスピードで喋っているのはさっぱりわからない。CNNが流れていてもあまり理解できない」ということ。

「英語ネイティヴの人と話す機会がないので(笑)。僕が行くのは、英語やフランス語などが第二言語である地域ですから。インド人と英語で話す、とか、コンゴ人とフランス語で話す、とか、タイで中国語を媒介として秘境に住む民族の言葉・ワ語を習う、とか」

 果たして、高野さんの英語力は?