作家・プランナー、浅生鴨。元NHKディレクターで数々の番組制作に関わり、広報局時代にはツイッターの公式アカウント「@NHK_PR」を開設、独特のユルいツイートで60万人以上のフォロワーを集めて「中の人1号」として話題になったユニークな人物である。そして新刊『ぼくらは嘘でつながっている。』もまた、これまでに読んだことのない特異な読み味で、「この人(この本)はいったいなんなんだろう…」という、カテゴライズのできない不思議な魅力を放っている。テーマは「嘘」。徹頭徹尾、嘘だらけの1冊について聞いた。
(剣持 亜弥:ライター・編集者)
人がイライラしたり混乱したりする理由
サブタイトルには「元NHKディレクターの作家が明かす人間関係の悩みが消えるシンプルな思考法」とあり、いかにもビジネス書っぽい。読んで「なるほど!」と膝を打ち、人生にすぐに役立つ具体例が満載のライフハック本・・・と思いきや、表紙をよく見れば帯の推薦コピーは著者本人の言葉だし、出版社名の横には「本来、『ビジネス書』の出版社である。」と小さな注釈があったりして、そこはかとない「嘘っぽさ」が醸し出されている。
冒頭、「はじめに」では、「僕は嘘のプロである」として、自身のこれまでの歩みが書かれるが、途中で「自己紹介が遅れました。作家の草河文世です。」とくる。ちなみに、この「はじめに」の11ページだけで、「嘘」という単語が105回出てくる。
そして始まる第1章。「だ、である」で書かれていた文章が、途中でいきなり「ですます」になる(そしてその後もランダムに変化する。急に馴れ馴れしい口調になったり、「ござる」になったりもする)。
「僕がこの本で書きたかったことは、『一人一人の頭の中って全部違う』ということなんです。僕の頭の中と、みなさんの頭の中は違いますよね、と。『本というのは1冊を通して語尾が統一されているものだ』と考える人は、そうでない状態が気になるかもしれないけれど、僕が同じ考えだとは限らないわけで。自分とは違う頭の中を見せられているから、イライラしたり、混乱したりする。それは、僕からすれば願ったりかなったりなんです」
その読み味を、浅生さんは「歯応えがある」と表現した。