「絶世の美女」として知られる小野小町だが、その姿はあまり伝わっていない(写真:New Picture Library/アフロ)

小野小町、北条政子、淀殿、八百屋お七といった有名どころのみならず、磐之媛(いわのひめ)、恬子(やすこ)内親王、美福門院、桂昌院といった、あまり知られていない面々まで。9月22日に発売された『歴史をこじらせた女たち』(文藝春秋)は、歴史上の“こじらせ”系の女性33人を、史実に照らし合わせながら、独自の視点も加えて生き生きと綴ったエッセイ集だ。著者は『浅井三姉妹 江姫繚乱』『白蓮の阿修羅』『義経と郷姫』ほか歴史小説、『更紗屋おりん雛形帖』『江戸菓子舗照月堂』シリーズなど多数の時代小説を世に送り出している篠綾子さん。今作の執筆の経緯と、読みどころについて聞いた。

(剣持 亜弥:ライター・編集者)

夫の浮気相手の隠れ家をぶち壊した北条政子

『歴史をこじらせた女たち』は、1975年に刊行された直木賞作家・永井路子の名著『歴史をさわがせた女たち』を念頭においた作品だ。篠さん自身、「私にとってバイブルのような作品」と語る。

「高校3年生のときに、日本史の先生に授業で紹介されて読みました。今でも覚えていますが、北条政子が夫の浮気相手の隠れ家をぶち壊していたと知り、仰天しました(笑)。当たり前のことではありますが、歴史上の人物にも、こんなにも生き生きとしたエピソードがあるんだと知って、衝撃を受けるととともに深く感動したんです」

“こじらせた”という切り口は担当編集者からの提案だった。

「今回登場する33人には、奈良時代、僧である道鏡を寵愛し、皇位につけようとしたことで国中を混乱に陥れた孝謙天皇のように、文字通り歴史をこじらせた女性もいれば、愛する人に会いたいあまりに江戸の街に火を放った八百屋お七のような、何らかの形で“心をこじらせた”人物もいます。なかには、豊臣秀吉の側室であった淀殿のように、“歴史をこじらせた悪女”というイメージがついていながらも、よくよく史実を辿ってみればそれほどではないのでは? という女性もいて、多彩な人生を取り上げることができたと思います」

歴史上の“こじらせ”系の女性33人について綴った『歴史をこじらせた女たち』(文藝春秋)