フェイクニュースが生み出される背景には、「儲かるから」という経済原理がある。2016年の米国大統領選挙では、マケドニアの学生が広告収入を得る目的で大量のフェイクニュースを作っていた。アテンションエコノミー(関心経済)の中で、様々なメディアが公共性ではなく商業性に傾いている現実がある。ネットメディア論、情報経済論を研究する山口真一氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授)による連載「フェイクニュースの研究」の第7回。

お金のために生み出されるフェイクニュース

 フェイクニュースはそもそもなぜ生み出されるのだろうか。例えば、熊本地震の時に「動物園からライオンが逃げた」という投稿をして書類送検された人がいたが、彼はネタで面白いと思ってやったのだろう。また、芸能人などの根も葉もない噂が広まるのは、多くの場合思い違いを基としており、こうしたものも少なくない。さらに、マスメディアが誤ることもある(いわゆる誤報)。

 しかし、何らかの意図を持って作成された偽情報(disinformation)の多くは、経済的動機によって作成されている。要するに、お金のためである。

 2016年の米国大統領選挙では、米国から9000km以上離れた東欧の小国(マケドニア共和国)に住む学生が、大量のフェイクニュースを作成していたことが分かっている。少なくとも数百人の住民がフェイクニュース作成に携わり、100以上の米国政治情報サイトが運営されていたようだ。そしてそのフェイクニュースの多くが、ドナルド・トランプ前大統領の支持者に向けたものであった。

 なぜ、このように米国と全く関係のなさそうな国の学生がそのようにフェイクニュースを作成していたのだろうか。彼らは政治的立場から、遠い米国でトランプ氏を勝たせたかったわけではない。彼らの狙いは、記事の作成・拡散による莫大な広告収入にあったのである。

 彼らは、米国の右翼系ウェブサイトなどから、完全に剽窃したり、寄せ集めたりした情報に扇動的な見出しを付けて公開し、拡散を狙っていた。特に右翼ネタほど拡散されやすいことから、トランプ氏を擁護するようなフェイクニュースが大半を占めたということである。数か月で親の生涯年収分稼いだ者もいるようだ。

 ある家族では、17歳の男子高校生がフェイクニュースを作成して両親の年収を超える多くの収入を得ていた。罪の意識がないのか尋ねると、クラスメイトの約4割がフェイクニュースを作成しているといい、その母親も「お小遣いをあげなくて済んで家計は助かっていますし、息子にはもっと頑張ってほしい」と述べたようである。

 失業率が約3割と、日々の生活も苦しいマケドニアの若者にとって、フェイクニュースによる収入はあまりに魅力的である。彼らは、「天井知らず」などの極端な言葉を使うことや、時差を考慮して投稿するなどの工夫を凝らし、米国大統領選挙以外でも多くのフェイクニュースを作り続けている

 日本でも同様だ。例えば、「韓国旅行中の日本人女児を暴行、犯人が無罪に」というフェイクニュースがネットメディアで流れたことがあった。このデマ記事を作成した人は、「日本で韓国ネタは拡散されやすいから」「お金が欲しかった」という理由で、韓国関連の排外的な記事を作成していたと取材に答えている