東南アジアには「黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)」と称された世界最大の麻薬生産地があり、ここも探検意欲をくすぐった(写真:ロイター/アフロ)

「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」ことをポリシーとするノンフィクション作家、高野秀行氏。「幻獣ムベンベ」を追ってコンゴ奥地の密林を探検したり、ビルマ(現ミャンマー)のアヘン王国へ潜入したり、謎の独立国家ソマリランドへ飛び込んでみたりと、辺境の地でさまざまな活動を行ってきたが、そこには常に、新たな語学の習得というワクワクがあった。新刊『語学の天才まで1億光年』は、「語学から未知の世界へ斬り込む」ことを続けてきた高野氏の、初期の12言語についてのエキサイティングな語学の旅の記録である。

(剣持 亜弥:ライター・編集者)

語学は探検における「魔法の剣」

 学生時代から現在に至るまで、25を超える外国語を習い、実際に使ってきたという高野さん。なぜそんなに学ぶ必要があったのか?

 それは、「アジア・アフリカ・南米などの辺境地帯で、未知の巨大生物を探すとか謎の麻薬地帯に潜入するといった、極度に風変わりな探検的活動のため」で、例えるなら語学は高野さんにとって「探検的活動の道具」であり、ときには強力な「魔法の剣」となるものなのである。

 著書『語学の天才まで1億光年』は、そんな高野さんが次から次へと新しい言語を習っては、現地の人とデュープなコミュニケーションをしていく様子が仔細に、たっぷりと綴られている。

ノンフィクション作家、高野秀行氏の近著『語学の天才まで1億光年

「これまでもずっと、編集者や読者の方に『語学の本を書いたら?』と言われてはいたんです。でも、海外に出かけて行ってはその体験を書く、ということを繰り返してきたので、なかなか時間がとれなかった。今回、書くことができたのは、コロナ禍で取材に行けなくなり、期せずして、なんですね。こんなに長期間国内にいたのは、学生時代以来初めてでした」

 第1章は、高野さん19歳、インド一人旅での語学体験。使うのは「英語」。

「実は父親が高校の英語教師だったのですが、私自身は、語学に特別な関心をもっているわけではありませんでした。そして、今もそうなのですが、子供の頃から地道な努力が苦手で、単語のスペリングや動詞の活用を覚えるといった単純な作業がどうしてもできない。だからこそ、『ラクして覚える』学習法をひたすら追究しました」