特例貸付の償還で始まる新たな課題

生水:役所は、たくさんのチャンネルを持っているんです。教育もあれば、医療や商工観光、福祉もある。その先には、農業団体や自治連合会、PTAのような組織もあります。

 そういう役所の総合力をフル活用すれば、地域の様々な人とつながることができると思うんです。そのためには庁内連携。これを機能的に進めることが、困窮制度を知ってもらう上でとても重要だと感じています。

──実際に困窮者とつながったとして、支援していくためにも庁内連携は不可欠です。

生水:来年1月から、特例貸付の償還が始まります。その時に、償還免除を受けられない人をどう支援していくのかという問題が浮上します。また、償還を免除された方も、低所得だからこそ免除されているのであって、免除で終わりではなく、その方の生活再建も進めていく必要があります。

 その際には、社協との連携だけではなく、いろいろな滞納もあるだろうから、税金や水道、市営住宅など役所の債権に関わる部署とも協力して支援していかなければなりません。

──まさに野洲市がやってきたことですね。

生水:そうです。これは難しいことではなくて、職員の意識改革さえできれば、「それがいいことなんだ」と思えば、組織は動くんです。予算を立ててシステムを導入するというような話ではなく、プラスアルファのお節介をしましょう、という話なので。

※野洲市は生活困窮者支援を手がける市民生活相談課を軸に、市営住宅を担当する住宅課、上下水道料金に関わる上下水道課、給食費を管理する学校教育課、県市民税や固定資産税などを扱う納税推進課など、税金や公共料金など困窮者の「支払い」に関連する部署が連携して困窮者を支援する仕組みがある。納付相談を通して困窮者を発見した際に、市民生活相談課につないで一体となって支援する「多重債務者包括的支援プロジェクト」だ。この仕組みをベースとして「野洲市債権管理条例」も設置されている。

 少し前に、ひきこもりの方から相談があって。就職に失敗してひきこもりになってしまったけれども、社会に出て行かなければと悩まれて。そこでSNSの広告で見た副業サイトに申し込んだものの、やれ情報商材だ、サポート費が必要だとどんどんお金を請求されて。

 この相談について、契約トラブルは解決できても、その方のひきこもり状態をどのように支援するのかという点については消費生活センターでは対処できません。

 だからこそ、もう少し踏み込んで、消費者被害の背景や滞納の原因に借金はないのかといったことを、役所のいろいろな部署と連携しながら対応していく必要がある。

 平成11(1999)年に、消費生活相談の相談員として野洲市に入った後、役所の内外に仲間を増やし広げていくということを繰り返してきました。一人では無力だけど、みなさんに助けてもらえるという安心感が私の支えになっています。

──野洲市や座間市は生活困窮者の自立支援を積極的に進めていますが、全国の自治体で見れば、取り組みには濃淡があります。これは、自分たちの地域に困窮状態の人がいるということを認知していないのか、それとも理解しているけれどもリソースが足りていないのか、どう考えればいいでしょうか。