座間市内にある小田急線の相武台前駅。日々、大勢の人が行き交っている。その中には、生活困窮者もいる(Ricardo Mansho)

(河合達郎、フリーライター)

 社会の中に溶け込んでいる困窮者──。

 筆者がこう表現するように、生活に行き詰まり、支援の手を必要としている人の存在は見えにくい。サポートする側は、こうした困窮者たちをいかに見つけ出し、つながろうとしているのか。そして、困窮者が抱える複雑な問題の一つひとつを、どう解決に導こうとしているのか。

 生活困窮者支援の現場で奮闘する、神奈川県座間市生活援護課の取り組みを描いたのが『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』だ。

 物語はまず、高台から見下ろす座間市の描写から始まる。似たような家が建ち並び、暗くなれば明かりが灯る。いつもの街並み。困窮者は、だが確実に、この街のどこかにいる。高台からは、その存在を確認することはできない。

「把握」こそが、困窮者支援の第一のハードルだ。「支援」の前に横たわる大きな課題に、座間市はまず奔走する。

 その中心が、林星一。社会福祉法人や民間の介護事業者での勤務を経て、座間市役所に入庁。2015年4月、生活困窮者自立支援法の施行と同時に生活援護課に新設された自立サポート担当に就いた。

 林が早々に取り掛かったのが、役所内に「困窮者を早期に見つけ出すセンサー」を張り巡らせる、ということだった。「生活に困っていそうな人がいれば、自立サポート担当に連絡してほしい」。そんなお願いをして各課をまわった。

「失業して税金が払えません」。そのセンサーは、例えば、収納課に寄せられるこんな相談に反応するようになった。林のもとに情報が入ることで、問題の根本にある「就労」へとアプローチができる体制を整えたのだった。

市役所と外部団体が連携した「チーム座間」

 困窮者の話を聞けば聞くほど、林は次のハードルを感じ始める。「自分一人で解決できることはほとんどない」ということだ。

 引きこもりの子を持つ保護者の就労問題。家賃を滞納して立ち退きを迫られている高齢者の、新たな住まいの問題。根強いニーズのある食料支援に関し、どこからどれだけ集めるのかという運用面の問題──。

 支援のアイテムをそろえるために林が打った手は、地域で活動するNPOや社会福祉法人、企業など外部組織との連携だった。

 本書の中心は林星一だが、支援の実務を担う一つひとつの民間組織もまた、主人公として描かれている。第3章は、フードバンク。第4章は、就労経験がほとんどない人に訓練の場を提供する就労準備支援。第5章は、市役所の窓口に来ない・来られない人を可視化する「アウトリーチ」。第6章は、子どもの居場所づくり、というようにだ。

 そして、こうした各実務を担う団体と座間市生活援護課が「チーム座間」というネットワークを形成している。

 チーム座間がその重層的な力を発揮したのが、ホームレスになることを覚悟で、住み慣れた東北の地を飛び出したある男性のケースだ。借金を抱え、妻子と別れ、マイホームを失い、職を失い、自暴自棄になっていたところ、偶然にも、チーム座間の支援の網にすくわれることになる。

 住まいがセットになった職探し。金銭管理の伴走。債務整理の法的サポート。男性は生活の再建だけでなく、絶縁していた親族と復縁し、人生の再建へと歩み始めたのだ。

【全文公開(6月28日まで)】生活困窮者支援で注目集める座間市の取り組みとは?/篠原匡『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(https://note.com/asahi_books/n/nebdfe11f7d5a)