生活困窮者自立支援制度に欠けていた視点

林星一氏(以下、林):その点について、座間市の取り組みを書いた『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』が出版された後、自分の市のことが書かれているので、書評などに一通り目を通しました。そうすると、この制度の存在を知らなかったという声がけっこうあるんですよね。

 そもそも、著者の篠原さん自身があとがきで「制度の存在を全然知らなかった」と書いていますからね。

──そもそも福祉分野に疎いというのもありますが、全く知りませんでした。

林:篠原さんはジャーナリストとして、地方創生や地域づくり、あるいは米国の貧困や分断などのソーシャルイシューを取材されてきました。釜ヶ崎のドキュメンタリーもつくっていますよね。

 そういった社会的な課題に関心を持つジャーナリストの方でも生活困窮者自立支援制度を知らなかったわけですから、支援で忙しくしている方や困窮状態にある方に届いていないというのも当然なのかなと。やはり制度の存在が知られていないという前提で、物事を考えていかなければならないと思います。

【著者の関連書籍】
◎『Super Aged Community 釜ヶ崎物語』(http://www.amazon.co.jp/dp/B0BCF4K46Z)
◎『Dying Alone 孤独死の現場を覗く』(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BC8DG1MG)
◎『TALKING TO THE DEAD イタコのいる風景』(https://kawazumedia.base.shop/items/61011308)

生水:私の思いではありますが、私にとって生活困窮者自立支援制度は理想を語り合っていく制度だったんです。

 民主党政権だった2011年に、現在の困窮制度の源流であるパーソナル・サポート・サービスが内閣府で始まりました。それ以来、「こうしたらいいよね」「ああいうことをした方がいいよね」と、全国の支援の現場にいる民間や自治体、国のみなさんと垣根なく、わちゃわちゃとつくり上げた、育て上げた制度なんです。

 ただ、理想を語ることは大切なんだけれども、支援者の理想だけでつくり上げていく制度ではないので、その理想が机上の空論になってはだめですよね。「どうすれば制度が支援を必要とする人に届いていくのか」という視点が欠けていたのかもしれません。

──そもそもなぜ認知されなかったのでしょうか。以前、林さんは2000年に始まった介護保険制度と比較して、生活困窮者自立支援制度は取り組みの量が足りなかったという話をしていましたが、国や自治体の熱量の問題でしょうか。