家庭連合(旧統一教会)のイベントにメッセージを送っていた安倍元首相(写真:AP/アフロ)

(山本一郎:情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

 奈良での選挙応援演説中に凶弾に斃れた安倍晋三さんの事件の背景に、銃撃した容疑者の家庭環境があることが明らかになってきています。一家離散の原因となった宗教団体・旧統一教会(現・家庭連合)への過剰な宗教献金、いわゆる「宗教二世」問題です。

 一国の元総理が白昼堂々暗殺されるという凄惨で衝撃的な事件があったことで、特定の宗教や信仰そのものが否定されることは望ましくありません。容疑者にいかなる背景があったとしても、その出自、地域、人種、勤務先などの属性で一概に非難をすることは危険です。仮に今回のバックグラウンドに宗教問題があったとしても、それと認めて家庭連合(統一教会)を指弾することは、テロを起こし、安倍さんを銃撃した容疑者の願望を達成することに他ならないからです。

 同時に、我が国には政教分離の原則があります。この政教分離原則とは、日本国憲法20条第3項「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」をベースにしています。また、第89条では宗教活動への公金の支出を禁止しており、宗教団体が政治に直接関わることは制限されています。

 創価学会を主な支持母体とする公明党などの公党・政治団体や、今回問題となっている家庭連合と自民党の関わりにおいては、宗教団体が政党を作る、または政治家を後援するなどの行為は政教分離の原則に抵触するものではないという前提に立っています。

 すなわち「政教分離」の原則とは、政府が何らか関係の深い特定の宗教に対して特別な便宜を図ったり、逆に特定の宗教を不当に弾圧したりすることを禁じるものであり、宗教的な信念を持っている人や団体が政治家になるために立候補したり、後援会に人を出したり、選挙活動を手伝ったり、適法な範囲内で公党や政治家に献金を行うことを禁じているわけではありません。

 宗教団体と政治が問題となって表出したのは、一般的に1980年代末期から1990年代中期にかけて、サリン事件など大きな事件を起こしたオウム真理教に端を発します。

 反社会的な教義で信徒を抑圧し、宗教団体への献金を巻き上げて人生を壊すプロセスについては、事件とその解明が進むほどに衝撃をもって日本社会に受け止められました。「麻原彰晃」を名乗る教祖が政治への進出をもくろんだことで、「民主主義への攻撃を企図した」と受け止められた経緯があります。

 しかしながら、今回問題となった家庭連合の宗教二世による凶行は、現時点における警察当局などの発表やマスコミ報道を素直に信じるならば、オウム真理教よりもはるかに前の、文字通り、戦後すぐの日本社会の混乱に乗じて浸透した宗教団体による、長年にわたる宿痾であった可能性を否定できません。