安倍晋三元首相(写真:AP/アフロ)

 7月10日に投開票された参院選は、自民党が弔い合戦ムードの中、単独で改選過半数という空前の勝利を収めた。安倍晋三元首相の死去について、メディアは「銃撃」などと表現しているが、「暗殺」と明記すべき大事件であり、凶悪なテロであるという事実をもっと強調するべきだろう。

 さて、自民党の参院選大勝で岸田文雄政権は盤石になったかのように見えるが、実際は異なる。政界最高実力者として個別政策から党内政局まで、圧倒的な影響力を保持してきた安倍元首相の突然の死去は、永田町の力学に大きな変化をもたらすからだ。党内最大派閥・安倍派の跡目をめぐる争いに直結し、「反岸田」の面々を勢いづかせる可能性もある。誰が安倍元首相の意志を継承するのか――。熾烈な権力闘争がすでに始まっている。

安倍派の後継不在

 投開票日当日の7月10日。東京都内の安倍元首相の私邸には、弔問客が次々に詰めかけた。前日に無言の帰宅となった安倍元首相の近くで、懸命に弔問客に応対していたのは安倍派(清和政策研究会)の会長代理である塩谷立元文部科学相(当選10回)、同じく会長代理の下村博文前政調会長(9回)、同派事務総長の西村康稔前コロナ担当相(7回)らである。

 自民党最大派閥の安倍派(93人)には、閣僚や党三役がひしめくが、衆目の一致する後継者は不在といえる。私邸で応対に当たっていた塩谷、下村、西村の3氏のほかに、松野博一官房長官(8回)、萩生田光一経済産業相(6回)、稲田朋美元防衛相(6回)、福田達夫総務会長(4回)らが有力後継候補と目されているが、いずれも決め手に欠くとの印象が強い。付言すれば生前の安倍元首相が最も期待していた意中の“若頭”は萩生田氏である。

 安倍元首相が今回のような形で不在となる事態は当然誰も想像しておらず、派閥としてすぐに後継の会長を決められる状況にない。だが、悠長なことは言っていられない。内閣改造・党役員人事は8月下旬にも行われる見通しで、安倍派の窓口役を早急に立てる必要がある。閣僚、党役員のポストを安倍派が確保するために、誰が岸田首相サイドと折衝していくのか。

 ここ数日、長くても1カ月以内が勝負だろう。実質的な集団指導体制に移行し、塩谷、下村、西村の3氏を中心に暫定的に派閥運営に当たっていくという無難な線もあるが、果たしてどうなるか。