通訳のアントン氏の案内でルドメイン社の露天掘りの鉄鉱石採掘場を訪れた。多くの露天掘りは鉄分の少ない「マグネタイト鉱」だが、ルドメイン社の露天掘り鉄鉱石は鉄分が60%もある「マルタイト鉱」だ。鉄鉱石が他のミネラルと反応して流れ出し、採掘場やその周辺、犬まで赤茶色一色に染まっている。採掘場に行くことを隠語で「火星に行く」と言う。
「火星」で鉄鉱石を掘る「鋼鉄の男」たち
この採掘場ではロシア軍が侵攻してきた最初の数日から1週間だけ操業は止まったが、すぐに再開された。現場のビタリ・メルニィチェンコ氏は「現時点で生産量は50%まで回復した。しかしロシアとの戦争が終わらない限り100%には戻らない」と話す。
戦争で海外の専門家はウクライナに来られなくなった。燃料は不足して高騰し、機器の供給や鉄道輸送も滞る。ロシア軍はウクライナの黒海経由での輸出を妨害している。
屈強な作業員約1200人のうち153人がウクライナ軍や領土防衛隊に参加した。採掘場で働いていたメルニィチェンコ氏の弟も戦場で肩をひどく負傷し、片目を失った。しかし、彼は「この仕事は俺たちを強い勇者に鍛え上げてくれる」と誇らしげに語った。
この採掘場は深さ160~180メートルで決して大きくない。親日家セルギー・ミリィウチン副市長は「クリヴィー・リフではこの140年間で深さ500メートルまで掘り進んだ採掘場もあるが、5000メートルまで鉄鉱石が埋蔵されている」と豪語する。良質な鉄鉱石は赤茶色ではなく深緑色をしているとメルニィチェンコ氏は教えてくれた。
その深緑色に筆者はウクライナとゼレンスキー大統領の強さを見た。
*ジャーナリスト木村正人氏が、現地取材でお伝えする等身大のウクライナの人々の姿はこちら
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