空手で身につけた精神力で困難に立ち向かうセルギー・ミリィウチン副市長(筆者撮影)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]ウクライナ中部の都市で出会ったその男性は、プーチン大統領の「武道精神の欠落」について語りだした。

「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が柔道から何を学んだのかは私には分からない。彼は格闘技で体を鍛え、力や強さを得たのかもしれないが、マーシャルアーツ(東洋の武道・武術)の精神には興味がなかったのだろう。マーシャルアーツは攻撃ではなく、防御のためにあるのに」

 ウクライナ最大の鉄鋼メーカーがあり、鉱工業が盛んなドニプロペトロウシク州クリヴィー・リフ(人口約64万6700人)のセルギー・ミリィウチン副市長(44)は10年以上、空手の稽古にいそしんだ。ロシア軍の侵攻が始まってから約4カ月、休みなしの激務が続く。「マーシャルアーツで体だけでなく心を鍛えたくて空手を始めた」と振り返る。

占領地域からが逃れてくる人々がすがる都市

 ここクリヴィー・リフは、ロシア軍が占領する東・南部に近い。そのためロシア軍の占領地域から避難してくる人々も多い。そこで筆者は避難民支援センターを取材させてもらおうと、飛び込みで訪れたのだ。

 センターの入り口で担当者からの電話を待つよう指示された。しばらくすると携帯電話に「アントン」という男性から流暢な英語で連絡があり、ウクライナ国防省の取材許可証とパスポートを送信するよう求められた。

 しばらくしてやってきた市職員アントン(25)の案内で支援センター内を回ったあと、副市長に取材できると告げられた。その副市長が冒頭のセルギーだった。