妻と両親を残し、男は10人の子供を車に乗せ避難した

 日本の自動車メーカー、トヨタと桜の木60本を公園に植えるプロジェクトはロシア軍の侵攻でストップした。オレクサンドル・ビルクル市長によると、侵攻初日の2月24日、市内の軍事関連施設は空爆を受け、翌日には旧空軍基地にロシア軍の空挺部隊が接近してきた。しかし地元の防衛隊が素早く機械設備で滑走路を塞いだため、空挺部隊は着陸をあきらめたという。

 セルギーは隣接するヘルソン州の村から10人の子供と1台の乗用車で逃れてきた「バレンティン」という35歳ぐらいの男の話をしてくれた。わずか30キロメートルの道のりだったが、どこにロシア軍の地雷が埋められているか分からない。神に祈りながらハンドルを握った。到着した時には5キログラムも体重が減っていた。

 避難する車が地雷で吹き飛んで死者が出る悲劇が他の村では起きたという。

 村を占領していたロシア軍が数時間だけ、いなくなった。村には自動車はバレンティンの1台しかなかった。バレンティンには妻と年老いた両親がいた。しかし村の住民たちは「どうか子供たちだけでも逃してあげて」と10人の子供を集めてきて懇願した。ロシア軍はいつ戻ってくるか分からない。時間がなかった。バレンティンは家族に相談した。

 妻と両親は答えた。「私たちは大人だから何とかなる。子供たちを車に乗せて今すぐ逃げて!」。それ以来、バレンティンは家族に会っていない。ロシア軍は占領地域の境界管理を強化し、村から人の出入りをできないようにしたためだ。バレンティンが車で村に妻と両親を迎えに行けば、間違いなく殺される。