その日の午後、セルギーとアントンが筆者の泊まるホテルを訪れ、近くのジョージア料理レストランでインタビューすることになった。セルギーに「どうしてウクライナ語の通訳もつけずにこんな所にやって来たのか」と詰問された。

「長い、長い戦いになる。マラソンだ」

 ウクライナに入ってから書いた記事のリンクを送るとスマホで翻訳して読んで「よく書けているね」とつぶやいた。ぽつりぽつり会話が始まる。セルギーは筆者の生まれ故郷・大阪を訪れたことがあり、空手をたしなむことが分かってきた。筆者に同行する妻の史子(元日本テレビロンドン支局報道プロデューサー)は合気道4段だよ、と告げると場が和んだ。

 セルギーは優しい人で、筆者が中国の小龍包によく似たジョージア料理のヒンカリをナイフで切ったり、口を大きく開けて丸かじりしたり四苦八苦していると、「こうするんだよ」とニンニクの先っぽのような形をしたところをつまんでひっくり返してかじり、中の汁を飲んでから少しずつ食べるんだと教えてくれた。

 打ち解けたところで筆者は「ロシアとの戦争はいつまで続くのか」という難問から切り出した。

「長い、長い戦いになる。ロシアは強くて大きな国だ。人口も多いし、兵器もたくさん持っている。この戦いは短期間では終わらない。マラソンになる。長期間にわたるコンスタントなパフォーマンスが求められる。今でも1日16~17時間働いている。空手の瞑想で心身のエネルギーと強さを取り戻し、集中力を維持している」との答えが返ってきた。

「これがロシア軍が撃ち込んできたクラスター弾だ」と話すセルギー氏(臨時の副市長室で筆者撮影)

 クリヴィー・リフが受け入れた避難民は6万人、うち2万人が子供だ。教育や青少年育成、避難民を担当するセルギーは日本と姉妹都市提携を結んで空手の指導者を迎え、心に大きなストレスを抱えた避難民の子供たちに青空の下、マーシャルアーツで平常心や集中力を養ってほしいという夢を抱く。「できるだけ早くスタートしたい」という。

避難民の3分の1は子供だ(クリヴィー・リフの避難民支援センターで筆者撮影)

 地元ロータリークラブのメンバーのセルギーは姉妹都市の提携先や空手の指導者だけでなく、支援してくれる日本の慈善団体も探している。