支援センターとは別の場所にある宿泊施設までセルギーが車で送ってくれた。そこは児童福祉施設でもともといた子供50人はロシア軍の侵攻を受けて安全なオーストリアに避難し、代わりに子供17人を含む避難民41人が一時的に暮らしている。受け入れてくれる親族や賃貸住宅が見つかるまで滞在できる。

宿泊施設で出会った2世帯の避難民。口々にプーチン氏を非難した(筆者撮影)

 筆者が取材したイリーナさんとアンドリーさんには2歳の娘と11歳の息子がいる。イリーナさんのお腹の中には妊娠5カ月半の赤ちゃんがいる。アナさんとヴィタリーさんには4人の息子と1人娘がいる。2世帯ともクリヴィー・リフから南南東に約40キロメートルのアポーストロヴェから避難バスで逃げてきた。

「プーチンを私たちと同じ目に遭わせたい」

 アポーストロヴェでは6月14日からロシア軍の砲撃が始まり、4人が死亡した。住民1万5000~1万6000人の約半分が避難したという。

 イリーナさんは「プーチン氏には私たちと同じ目に遭わせたい」と言い、ヴィタリーさんは皮肉を込めて「プーチンさん、私たちに自由を与えてくれてありがとう」と語った。

 1日中、通訳をしてくれたアントンが別れ際に教えてくれた。「実はセルギー自身がドネツクから逃れてきた避難民なんだ。家族はイルピンに逃れたが、ロシア軍の侵攻でそこからも追い立てられた“ダブル避難民”なんだ。だから避難民の気持ちがよく分かる。彼らは“新しい市民”だという哲学が隅々まで行き渡っている」