「よし、寺子屋を作ろう!」と思ったものの
一つ目は、教育環境格差の解消に寄与すること。
これは、取り組みのきっかけとなった「保護者の送迎負担を解消する」ということだけではない。山あいで生まれ育った子どもたちが将来、そのことで引け目を感じたり、打ちのめされたりすることがないよう、自信と力を蓄えるサポートをする狙いも含んでいる。
二つ目は、現役世代の移住促進に寄与すること。
これは肌感覚だが、地方移住に関心を寄せる現役世代は多いものの、そこから一歩踏み込むのには「なりわい」と「教育環境」がネックになる。このネックの一つを取り除く一助となるのではないかと考えた。江戸時代、町人らが師匠になって地域の子どもたちに読み・書き・そろばんを教えた寺子屋のような、そんなイメージだ。
三つ目は、地域の遊休施設の活用に寄与すること。
小学校の目の前には、ローカル線・樽見鉄道の駅がある。駅舎として使われていた空間は数年前、かつての協力隊員が地域の人たちと一緒になって、住民らが集えるサロンスペースへと改装していた。だが、感染症のまん延をきっかけにそうした機会は失われてしまった。そんな施設を、子どもたちが集う場として再活用できればと考えた。
方向性が決まれば、あとは中身を詰めるだけ。だが、そこでもしっかりと壁にぶつかった。協力者がいない。
そもそも、講師ができそうな大学生を集めるのはムリ筋だと踏んでいた。近くに大学生がいないからだ。単純にアルバイトとして募れば、バイト代を他の塾産業と競うことになる。交通費もかさむ。通ってくる子どもたちの母数が小さいから、その分月謝が割高になってしまう。そんなことは避けたい。
そこで想定していたのが、地域にいるであろう教員OBの協力だった。元教育者らであれば、こうした事情も汲んだうえで、きっと惜しみなく力を貸してくれるに違いない。
地域の事情通たちに「教員OB、知りませんか?」と相談してみた。5人に尋ねたが、いずれも答えは「う~ん……」だった。すでにご高齢だったり、再雇用でまだ学校勤めを続けていたり。人手を整えるということにおいても、環境格差を感じざるを得なかった。