ベテラン教諭が語った田舎の学校の「刺激」

 お母さんが訴えた悩みは、塾まで送迎する時間がない、ということだった。Googleマップで見ると、地域の小学校から最寄りの学習塾までは車で約20分。なんだ、意外と近いじゃんと思われるかもしれないが、車が選択できうる唯一の交通手段で、仕事を抱える保護者が平日の夕方から夜にかけてこの距離を送迎するというのは、それなりの負担になるのは間違いない。少なくとも、保護者に「なかなか通わせられないな」と二の足を踏ませるのには十分だ。

 教育環境格差。こんな言葉がぴったりと当てはまってしまう。次第に、これは「条件不利地域」とも呼ばれる山あいの現状を映し出す一つの代表例なのではないかと考えるようになった。

 子どものためを思った保護者が、塾に通わせたいと思っても通わせられない。子ども自身ががんばって通いたいと思っても、その願いを叶えがたい。この山あいでなく、市街地に住んでいれば、そんな悩みはなかったかもしれないのに――。

 そう考えると、ああ、これは何とかしたい課題の一つだな、という思いになった。

 地域の子どもたちが学習に励むことができるような環境を整える。そんなゴールは定まった。とはいえ、自らが主体となって実行する術と経験を欠く元新聞記者。ということで、地域教育に携わる県内の人たちに聞いて回ることにした。学習支援団体やフリースクールの関係者、大学の先生。

 中でも印象深かったのは、ベテラン教諭の「刺激」というワードだった。

 街なかにある小学校に比べ、どうしても小規模校の子どもたちは周囲から受ける刺激が少ない。あの子はピアノを習っている。あの子は塾へ通っている。いいか悪いかはさておいて、飛び込んでくる情報の一つひとつが刺激になるところ、小規模校ではその情報量がどうしても少なくなる。だから、中学校、高校とより大きな単位でもまれるようになった時、周囲からの刺激に圧倒されて打ちのめされてしまうという例も目立つ、と。

 そんな印象を語ってくれた。

 ヒアリングを重ねながら、この場をつくることには三つの意義があると考えるようになった。