(舛添 要一:国際政治学者)
ウクライナ戦争は続いている。グテーレス国連事務総長も調停に乗り出し、ロシアとウクライナを訪問したが、すぐには停戦は実現しそうもない。マリウポリでは、製鉄所の地下壕にアゾフ連隊が市民と共に立て籠もり、抵抗している。ロシア軍が包囲しているので身動きができない状態である。プーチン大統領は、国連の関与の下で人道回廊を設置することを認めたが、それが実現するかどうかも定かではない。
正当化の論理:東南部を制圧しロシアに併合
プーチンは、マリウポリを陥落させ、東部のドンバス州から、既に併合したクリミア半島を経由し、オデーサからモルドバに至る地域までをロシア領とするという広大な計画を抱いている。
そこで焦点となってくるのがモルドバのウクライナ側国境地帯の帰趨だ。ここにはロシア系住民が住んでおり、沿ドニエストル(トランスニストリア)共和国を形成しているが、これは国際的には承認されていない。ここにはロシア軍が駐留している。
4月25日には、この沿ドニエストル共和国で、当局の発表によると、治安当局の建物で爆発が起こったという。犯人は、ロシア側かウクライナ側かモルドバ側か、分からない。また、27日にはウクライナ側から攻撃があったという。モルドバのサンドゥ大統領は、これをドニエストル側の自作自演だと批判している。
ウクライナに展開するロシア軍が、ドニエストル駐留のロシア軍と連携して東南部の攻略に成功すれば、ドンバスからモルドバ国境まで繋がる広範な地域がロシア管轄下に入ることになる。ロシア軍は、クリミアと隣接するウクライナ南部のヘルソン州をほぼ制圧、ヘルソン市のコリハエフ市長を解任し、親露派の共和国を立ち上げるための住民投票を準備しているという。投票は27日に行う予定だったが、延期された。住民投票は、クリミア併合のときと同じ手法である。
しかしながら、クリミアやドンバスとは異なり、ヘルソンやオデーサの住民の多数派がロシア人であるわけではない。それを併合するとなると、正当化の論理は弱くなる。
そこで、沿ドニエストル共和国の出番なのである。「ドンバス・ウクライナ・ドニエストルに住む同胞のロシア人がウクライナのナチス政権に迫害されるのを助けるには、マリウポリ、ヘルソン、オデーサをロシアの支配下に置く以外に手はない」という論理を展開するのである。