(舛添 要一:国際政治学者)
ウクライナでは、戦争が終わる気配は全く無い。国連のグテーレス事務総長の仲介で、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所から民間人約500人が避難することができたが、また戦闘が再開されたという。ロシアは5〜7日に人道回廊を築くというが、実現するかどうかは不明である。
特別軍事作戦の目標
5月9日は、第二次世界大戦でソ連軍がドイツ軍に勝利した対独戦勝記念日である。プーチンは、この記念日にウクライナでの「勝利」を高らかに宣言したいのであろう。プーチン政権の表現を使えば、「特別軍事作戦の目標は達成できた」という宣言である。
しかし、現実には、ウクライナ軍の激しい抵抗で、ロシア軍は思い通りに動けていない。
では、「特別軍事作戦の目標」とは何か。それは、「ゼレンスキー政権によって迫害されている東部ドンバスのロシア系住民を救出すること」にある。
ロシアは、ルガンスク、ドネツク両州のうち、親露派武装勢力が実効支配している地域(それぞれ、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国を標榜)については、2月21日に国家として承認した。そして、「両国」がウクライナ政府軍に攻撃されているとして、24日に「特別な軍事作戦を実施」した。つまり、侵略を開始したのである。
ロシア系住民を殺害するゼレンスキー政権は、ホロコースト、つまりユダヤ人虐殺を実行したナチスと同じだとして、プーチン政権は厳しく批判している。「ゼレンスキー政権=ナチス」という図式化は、ロシア国民を説得するには、極めて有効な単純化である。そして、「非ナチ化」というシンボルを「錦の御旗」として打ち立てることによって、侵略戦争を正当化する。