オランダ・ロッテルダムに集まるコンテナ。ここから欧州大陸各地に配送されていく(写真:AP/アフロ)

(羽生田慶介:オウルズコンサルティンググループCEO)

 ロシアによるウクライナ侵攻開始後、すぐに製品の販売停止を判断した米アップルやマイクロソフトに続き、欧米企業は次々とロシアビジネスの縮小を発表した。

 例えば、英石油大手BPは約20%の株式を持つロシア国有石油大手ロスネフチの株式を売却すると発表した。同社と手がけてきたロシア国内の合弁事業は、すべて解消する。欧州ビール大手のハイネケンとカールスバーグ、フィンランドの通信大手ノキアもロシア市場からの撤退を決めた。

 現状のロシアビジネスには、従業員の安全リスクだけでなく、国際決済システムSWIFTからの除外や米系クレジットカード大手の決済業務停止に伴う決済リスク、欧州からロシア向け税関手続きの複雑化による物流遅延など、様々なリスクが表面化している。

 こういったビジネス運営上のリスクに加え、企業がロシア事業を止めたい理由がレピュテーションリスクだ。

 3月10日に公開されたウクライナ外務省フェイスブックには、ブリヂストンや三菱グループなど、日本企業を含む多くのグローバル企業のロゴが並べられた。「ロシアへの納税は、ウクライナの子どもたちの死と涙に変わる」という言葉とともに、企業のロシアビジネスの停止を求めたのだ。これに消費者も呼応し、ロシアでビジネスを続ける企業への不買運動の様相も強まる。

3月10日に、ウクライナ外務省がフェイスブックに投稿した画像。「ロシアへの納税は、ウクライナの子どもたちの死と涙に変わる」という言葉とともに、ロシアでビジネスを続ける企業のロゴが並べられていた。その中には、日本企業のロゴもある(出所:ウクライナ外務省フェイスブックページ)

 このような状況にあって、今すぐにでもロシアビジネスを止めたいと考えている企業は少なくない。だが、撤退したいからと言って、そう簡単に撤退できないのがグローバルビジネスの現実だ。

 米イエール大の調査によれば、グローバル企業1000社超のうち、ロシアから事業を「撤退」した企業は289社に過ぎない。これに対して「一時停止」が360社、「事業縮小」が99社、「保留」が137社、そして引き続き「事業推進」が194社という結果だった(4月17日時点)。すなわち、「撤退」を決めた企業はまだ一部にとどまっているのだ。

【参考資料】
Over 750 Companies Have Curtailed Operations in Russia―But Some Remain(https://som.yale.edu/story/2022/over-750-companies-have-curtailed-operations-russia-some-remain)

 なぜロシアからの撤退に多くの企業が逡巡しているのか。大きく分けて、1)契約の問題、2)取引先との関係、3)資産の収用・商標侵害の3つが挙げられる。それぞれ具体的に見ていこう。