(舛添 要一:国際政治学者)
ウクライナでは戦闘が続き、ブチャなどでの民間人の虐殺(ロシアはこれを否定)が明らかになるにつれて、停戦交渉も進展しなくなっている。そのため、「プーチンさえ失脚すれば何とかなる」とか、「明日にでも暗殺される」とか、「経済制裁で苦しむロシア国民が反乱を起こす」とかいった希望的観測が横行している。
私に言わせれば、それらは根拠のないもので、ロシアの国民性やプーチンという政治家についての誤った認識に基づくものと言わざるをえない。俄仕立の「専門家」の戯れ言を聞くよりは、ドストエフスキーやチェーホフなどのロシア文学を読んだ方が、ロシアの理解に遙かに寄与する。
米露情報合戦に翻弄される公安調査庁
欧米・ウクライナとロシアの情報合戦も凄まじくなっており、危険な激戦地では中立的なマスコミも近寄れないため、実際に何が起こっているのかを正確には把握できていない。ウクライナ戦争は、ロシアと、ウクライナを代理とするアメリカ・NATOとの間の覇権争いの様相を呈している。
内外のマスコミのトップニュースはいつもウクライナ情勢であり、とくにテレビは戦争の惨状、犠牲者の困苦を伝える映像で視聴率を稼いでいる。それだけに、ネタ切れの様子で、ウクライナの「アゾフ大隊」などについて興味本位に伝えている。この組織は、ドンバス州で親露派武装勢力と戦うためにマリウポリを拠点に準軍事組織として発足した極右ナショナリストの組織であるが、今は国家親衛隊に所属している。
因みに、公安調査庁は、自らのホームページで公開している『国際テロリズム要覧2021』から、「2014年、ウクライナの親ロシア派武装勢力が、東部・ドンバスの占領を開始したことを受け、『ウクライナの愛国者』を自称するネオナチ組織が『アゾフ大隊』なる部隊を結成した」とする記述を削除した。
在日ロシア大使館が、日本の公安調査庁もアゾフ大隊を「ネオナチ組織」と認めているとSNSで発信したために、削除したという。しかし、彼らが極右ナショナリストで、一部はネオナチであることは事実であり、だからこそロシアと獰猛に戦っているのである。
公安調査庁の強みは、定点観測であり、米露の情報戦に巻き込まれて、過去の調査結果まで否定することはなかろう。
ミンスク合意(2014年および2015年のミンスク2)の無条件停戦の約束にもかかわらず、ウクライナ政府側も親露派武装勢力側もそれを守らず、今日に至っているのである。双方が合意違反をしているのであり、ウクライナが100%正しいという判断は不可能なはずである。