
三菱電機は従来の売り上げ、利益重視の経営方針を改め、ROICを指標として投資規律を全社に浸透させる取り組みを進めている。これは、もうからない事業の継続で現場を苦しめないという、経営からの意思表示でもある。ハードウエアのメーカーから、付加価値の高いソリューションを提供する「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を目指す同社の現在地について、CFOの増田邦昭氏に聞いた。
顧客最優先の意識が現場を追い込んでいた
――三菱電機は電機メーカーの中でも、 携帯電話事業からの撤退を早期に決定するなど、事業構造の変革を早くから進めてきた印象があります。今、 ROICを重視した経営に転換を進めているのはなぜでしょうか。
増田邦昭氏(以下敬称略) ご指摘のように、当社は2000年代に事業の撤退を含む、いくつかの改革を実行しました。当時私はFA(ファクトリーオートメーション)製品の事業部に在籍していましたが、事業撤退で携帯電話部門にいたエンジニアが異動してきました。彼らが持つ技術が投入されたことで、FA製品の生産技術が各段にレベルアップしたことを覚えています。
事業の新陳代謝をしながら注力分野を強化してきたわけですが、そのかいもあって、2008年に起きた「リーマンショック」では、大きな打撃を受けたものの、当社は電機業界で唯一、赤字には至らなかったのです。
これは私の個人的な意見ですが、リーマンショックを乗り切ったことで少し油断が生じ、その後、改革の意識が10年以上にわたって停滞してしまったのではないかと考えています。
そして、2021年に当社の品質不適切行為が発覚。過去からの事案を含め、197件もの問題が明らかになりました。