(舛添 要一:国際政治学者)
ウクライナ紛争は、10年以上にわたって長期化する可能性が大きい。停戦までに1カ月以上はかかるだろうし、クリミア等の帰属は15年間棚上げという。2014年のクリミア併合からもう8年が経過するのに、その帰属を巡ってまだ対立が続いたままである。今回の戦争が終結しても、戦後復興に莫大な時間と費用がかかるであろう。
ウクライナ側の譲歩
ロシアとウクライナの停戦交渉がトルコのイスタンブールで行われたが、妥協できる可能性も出てきたと報じられている。しかし、様々な問題も孕んでおり、容易に停戦に到達できるかどうか分からない。そして、いったん停戦に漕ぎ着けても、おそらくその後も紛争は継続していくと思われる。
トルコが仲介する停戦交渉の場で、ウクライナ側は、「NATOに代わる安全保障の枠組みができれば、中立化を受け入れる」という。「中立化」とは、具体的にはウクライナ国内での外国軍の駐留や基地は認めないということである。また、核兵器など大量破壊兵器は保有しないという。
侵略者プーチンは非難されるべきだが、今頃ウクライナが「中立化」、「NATO以外でもよい」と言うのなら、なぜ戦争前にもっとロシアと相談できなかったのか。フィンランドは、表ではロシアの顔を立てながら、裏ではNATOとしっかりと連携している。
冷戦時代には「フィンランド化」と呼ばれて批判されたが、地政学的な要素を考えると、こういう面従腹背もある。それにフィンランドは、第二次大戦中にスターリンのソ連と激しく戦い、領土は一部割譲したものの、独立を保ってきた歴史がある。
外交は「ゼロか100か」ではない。ウクライナ戦争による甚大な被害を前にすると、なぜそれを避けることができなかったのか、残念に思う。その観点からは、ゼレンスキー大統領も無謬ではない。感傷的な判官贔屓を超えた冷徹な批判的視点が必要である。