文明の衝突
クリミアと並んで、東部のドンバス州をどうするのか。ロシアが意図するのは、分離独立させた上でロシアに吸収することである。ウクライナ政権がどうなるかにもよるが、高度の自治権を付与されるだけでは、ロシア系武装勢力も武器は置かないであろう。紛争は続いていく。二度にわたるミンスク合意も功を奏しなかった。
ウクライナは、国を東西に分割することには反対であり、国土の統一を死守するであろう。
両者の対立が続けば、紛争は長期化するであろうが、この問題を文明圏という観点から考えることも可能である。
サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』(原著1996年、邦訳1998年)の中で、1990年以降の世界について、西欧、イスラム、中国など9つの文明圏を挙げた。その1つが「東方正教会」である。
ロシア、ベラルーシ、ウクライナや旧ユーゴスラビアなどの文明圏である。中でもウクライナについては、「西ウクライナのヨーロッパ化したスラブ人」と「ロシア系スラブ人」との対立に言及し、それは文化の違いという。つまり、西欧文明と東方正教会文明が1つの国の中で対立しているとし、分裂の可能性があることにも言及している。
ウクライナが統一を保ち、ロシアと良好な関係を維持していくことは東方正教会文明にとっては極めて重要であるが、この戦争の後、そのような良好な関係に回帰することができるのであろうか。ソ連邦崩壊後、「西欧文明圏」に属するバルト三国やポーランドがNATOに加盟したケースに比べ、文明という観点からも、ウクライナのNATO加盟が多くの問題を孕んでいることが理解できる。
EU加盟についても同様である。文明圏という観点からも、持続可能な国際秩序の構築がこれから大きな課題となる。