今の戦争は、東欧におけるアメリカとロシアの勢力争いの様相を呈しており、アメリカが米ソ冷戦終了後の安定した国際秩序の形成に失敗したことの象徴でもある。「勝ちすぎ」もまた敗者のルサンチマンを生むということだ。

ロシア側の譲歩

 一方、ロシア側は「非ナチ化」、つまりゼレンスキー大統領の退陣を条件としない可能性がある。また、停戦に向けたロシア側の誠意を示すために、キーウ(キエフ)やチェルニヒウ地域での軍事作戦を縮小するとした。信頼醸成措置である。

 クリミアの帰属問題については、ウクライナは15年間かけて議論するという。「棚上げ」ということである。

 しかしながら、キーウ周辺でのロシア軍の動きは、「縮小」ではなく戦力の再配置だとして英米は批判を強めている。ロシア軍がキーウなど北部で軍事展開を縮小し、ロシアやベラルーシに戻っているのは、第一にウクライナ軍の抵抗が激しく、予想外の被害が出たからであり、第二に補給に困難が生じているからだと考えられる。

 停戦交渉促進のための信頼醸成措置というのは、ロシア軍のそのような問題を糊塗するための取って付けた口実であろう。それは、ロシア国内向けに、成果が上がらないことの弁解としても使える。

 ロシアは、戦力を東部に集中させつつあり、自ら承認したドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の独立を確保するために全力を集中している。現地では、独立へ向けた住民投票も組織されつつあるようだ。クリミアと同じ併合パターンである。

 2014年3月18日に、住民投票の結果だとして、ロシアはクリミアを併合した。そして、次の標的として、東部のドンバス地方に食指を動かしたのである。