ロシアの増援部隊を黒海に入れさせないトルコ

――黒海のウクライナ沿岸に機雷がまかれています。ロシア軍か、ウクライナ軍かどちらが敷設したのか分かりません。ウクライナ軍が今後機雷をまく可能性はありますか。

香田 公海に機雷は無制限に敷設してはならない。おそらくウクライナ軍は最初、ロシア軍がオデーサに上陸してくることを心配した。それを阻止するためオデーサ沖の領海内に機雷を敷設したと考えることができる。

 ロシア海軍を閉じ込めるためにクリミア半島沖にウクライナ軍が機雷を敷設しに行くことも考えられるが、現実問題としてウクライナにはこの手段がない。

 風や海流より海面を漂う機雷、具体的には意図的に流した機雷(浮遊機雷)あるいは係維索が切れて流れ出した機雷(浮流機雷)のいずれも処理が大変だ。心理的にロシア海軍は自由に動けないということはあっても、数が少ない現状からロシア艦隊の動きを完全に封殺するという作戦効果はほとんどない。

 とは言え、黒海で浮遊・浮流機雷を探すのは砂漠で針を探すのと同じで、結局、被害が出るまで分からない。いま報道されている、黒海で流れている機雷はロシア軍の上陸を想定して敷設した機雷が何らかの理由で流れ出したのかもしれない。いまのところ機雷敷設は、少なくとも黒海の海戦の主たる戦術になっていない。

――NATO加盟国のトルコは黒海が戦場になるのを恐れてボスポラス海峡などを封鎖しているため、ロシア海軍やNATOの艦艇は黒海に入れません。

香田 まずNATOとしては当初から黒海に入るつもりはなかった。2月24日以前はロシア軍のウクライナ国境での威嚇と挑発に対応して、非戦時のショー・ザ・フラッグで米海軍や英海軍などNATO各国の艦が対ロシア牽制と抑止のため黒海に入った。

 昨年6月にはクリミア半島沖を航行した英海軍の駆逐艦に対してロシア軍が警告射撃や警告爆撃も実施したと報じられた。

 戦争が始まったいま、NATOはロシア軍の対艦攻撃能力を破壊してからでないと黒海には入らない。そのうえ「ロシア軍との直接戦闘はしない」との基本方針により、黒海に海軍部隊を展開する計画がないことは先に述べた通りだ。ボスポラス海峡とダーダネルス海峡を閉めても、もともと黒海で海軍力展開を計画していないNATOには影響がない。

 ロシアはシリアに軍港を持っており、地中海に約20隻の艦艇を展開しているが、今回のトルコの措置によりこの強力な艦隊が加勢のため黒海に入ることができなくなった。トルコは中立のふりをしてロシアの増援部隊を締め出している。

 同時に、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は戦争の仲裁など影響力を示したいという強い意向も持っている。トルコはアメリカの反対を振り切ってロシアの地対空ミサイルシステムS400を導入している。

 NATO加盟国としてNATOのことを考えながらNATO加盟国ではないウクライナの戦争に関しては国際的により大きな影響力を示し得るところを見せたいのだろう。