ロシアの装備は時代遅れなのか

――モスクワにも対艦ミサイルを迎撃する防空システムがあったはずですが。

香田 モスクワが備えていたのは冷戦後期に配備された対空ミサイルシステムで、西側のイージス以前のシステムである。太平洋艦隊に配備されたモスクワの同型艦に、私は現役時代、しかも中堅の佐官の時に洋上で対峙していた。設計思想や性能はイージスシステムの前のものであり、今日ではピカピカの最新型とは言い難い。

 もちろん、いまでも相対的には強力な対空能力を持っているが、現代の最新兵器である巡航ミサイルや無人航空機(ドローン)に対抗するとなると、どうしても一世代、二世代前の能力になる。

 モスクワ搭載の「SA-N-6(西側の識別番号)」や「SA-N-4(同)」の艦対空ミサイルはイージスが導入される前の冷戦時代のシステムで、対航空機については相当な性能を発揮できても、極低高度を飛行する巡航ミサイルに対する能力は限られている。それでも訓練を積めば全てとはいかないまでも相当数は撃ち落とせる。

 巡航ミサイル防衛は対空戦の中で一番難しい。ロシア海軍からすると黒海にはそれほど強敵はいないので、黒海艦隊の装備も一世代前、訓練の程度も、乗員の戦闘に際しての心構えも十分ではなかったのではないか。

 今日の実際の戦闘ではデコイ(囮)を使った陽動作戦はごまんとある。いま一部のマスコミや専門家の間で言われている、それに引っ掛かったとしたら実戦を想定した訓練さえ不足していたと言われても仕方がない。

――ロシア軍の装備も訓練も時代遅れになっていたのでしょうか。

香田 冷戦に負け、冷戦後、ロシアの経済と軍事力は一時期大きく下がった。ウラジーミル・プーチン露大統領になってようやく立て直し始めた。軍事力ではステルス戦闘機や対空ミサイルなどごく一部の近代化は進んだが、全体としてはソ連時代の最盛期のレベルには回復していない。

 最新型と冷戦時代で時間が止まった装備が混在しており、教育訓練も困難を極めていることは容易に想像できる。性能が相当違う兵器や装備を同じ部隊で使うのは非常に難しい。今回、このような不十分な部分のボロが出てしまったということだ。