――モスクワ撃沈で対艦ミサイルによる接近阻止の例を見せられたような気がしますが。

香田 これはロシア海軍の杜撰さ、甘さによるところが大きい。敵国の海岸に近づく時は陸上発射型の対艦ミサイルが非常に大きな脅威になるので、まず入念な事前攻撃により対艦ミサイルや対空ミサイルのような主防衛システムを潰してから近づくのが鉄則である。

 それをしなかったのは、ウクライナ軍の能力をなめてかかったか、そういう情報がなかったか、あるいは作戦の基本ができていなかったかだ。アメリカのやり方できちんと訓練をしている日本や西側の標準から言うと、そんな作戦は立てない。

 敵国の海岸に近づくのはそれだけでも危ないところに行くわけだから、脅威度は幾何級数的に上がる。近づく前に相手の対艦攻撃網、防空網を無力化する。そのために対地攻撃用の巡航ミサイルがある。今回のロシア海軍の行動は軍事作戦としても合格点はつけられない。

ウクライナ戦争は日本にとっての貴重な実戦教訓になる

――日本の地対艦誘導弾、空対艦誘導システムは十分でしょうか。

香田 日本の防衛装備政策は必要最小限という基本方針で進めてきた。もちろん、最高性能装備を多数保有すれば防衛効果が高まることは明白であるが、予算の制約や「他国の脅威とならない」という奇妙な政策により、「できるだけ高性能な装備を必要最小限」保有するという「お茶を濁す」政策を70年続けてきた。

 必要最小限という原則が適用できない今回のような、ある意味「専守防衛」を体現した長期戦になった場合、自衛隊の装備や弾薬がどこまでもつかということは、今回のウクライナ侵略戦争からわが国や政府、自衛隊が学び再検討すべき貴重な実戦教訓であると考える。

 ウクライナの戦いは日本の専守防衛と似ている。ウクライナ軍はロシア本土を攻撃できない。つまり、攻撃できるが装備もないし、仮に攻撃した場合「数倍返しの報復攻撃を受ける」恐れがあることだ。

 一方、ロシア軍は国力の続く限り、先に述べた補給経路の安全確保という戦術的問題はあるものの、十分に補給できる。結局、ウクライナは侵略する敵は排除するが「撃たれっぱなし」となり、そのうち万策尽きる事態となり倒れる恐れが高いことも冷厳な現実である。

 日本の場合は米軍が自衛隊の代わりに敵地を攻撃するというのが日米安保の大原則であるが、それをより確実にする不断の努力が必要である。

 つまり、現在のウクライナは日本とよく似た作戦境遇にあると言える。ウクライナがいま助かっているのは無尽蔵にアメリカをはじめ北大西洋条約機構(NATO)加盟国が対戦車ミサイルなどを千発単位で供給しているからだ。戦争では武器、弾薬は多いほど良いことは自明の戦理である。装備定数をどうすべきか、日本は今回の戦争を教訓にすべきである。