ロシア軍による残虐行為は瞬く間に世界中に広がる。写真はロシア軍が撤退したキーウ近郊のブッチャで放置された市民の遺体。後ろ手に拘束され殺害された遺体もあった(4月4日、写真:AP/アフロ)

【本記事は「プレミアム会員」限定記事ですが、特別無料公開中です。プレミアム会員にご登録いただくとJBpressのほぼすべての過去記事をお読みいただけます。この機会にぜひご登録ください。】

(英エコノミスト誌 2022年4月2日号)

ウクライナはこれまでに侵略された国で最もネットが普及している国だ。

 読者は恐らく、ウクライナ発の動画を見たことがあるだろう。例えば、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がほの暗い首都キエフの官庁街にほかの政府高官たちと並び立ち、スマートフォンで自撮りしながら「私たちはここにいる」と言い切った動画がある。

 撮影されたのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ領に戦車を送り込んだ数日後のことだ。

 あるいは、雪原で対戦車ミサイルを発射しているウクライナ兵を仲間が撮影し、ビートの効いたテクノ音楽を付した動画はご存じだろうか。

 ウクライナの女性がロシア兵のグループに歩み寄り、ポケットにこのヒマワリの種を入れておきなさい、そうすればあんたが死んだ時にその身体から役に立つものが生えてくるからと言い放つ動画はどうだろう。

各地のデモで「go fuck yourself」

 こうした動画はいずれもオンラインで広がって何千万という視聴回数や「いいね!」を獲得しており、リポストやリミックスに使われている。

 そして、放棄されたロシア軍の戦車を引っ張っていくウクライナのトラクターの写真(今ではミームとして世界中に出回っている)や、黒海の小島にいたウクライナ兵が近づいてくる船に向かって「ロシアの軍艦、くたばれ」と叫んだ声(東京ほど遠く離れた場所の抗議デモでも、この「go fuck yourself」が掛け声として使われる)とともに、即席の戦争史の一部になった。

 一部の評論家は今回のウクライナの戦争を「史上初のソーシャルメディア戦争」だと先走って形容したが、その指摘は正しくない。

 イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスは長年、実世界に加えてツイッター上でも争っている。

 プーチン氏による前回のウクライナ侵攻(2014~15年)時には、ロシア兵が投稿した自撮り画像をデジタル探偵たちが解析し、ロシア軍が確かにドンバス地方の戦場にいることを証明した(ロシア軍はそれ以降、兵士がスマホを持って任務に就くことを禁じた)。

 また、ウクライナでの戦争は、2016年にサービスが始まった動画投稿アプリ「TikTok」などの新世代のソーシャルメディアに登場した初めての紛争でもない。

 TikTokでは以前から、シリアの戦争の動画が流れている。興味のある人は、アルメニアとアゼルバイジャンが飛び地をめぐって戦った2020年のナゴルノカラバフ紛争の動画も数多く見つけられるだろう。