(英エコノミスト誌 2022年3月26日号)
ウクライナの戦争は「石油国家」から新しい「エレクトロ国家」へのシフトを加速させる。
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの体制と、プーチン政権が世界に突き付けている脅威の邪悪な中核にあるのは、エネルギーとコモディティー(商品)だ。
ウクライナの人々を殺めている戦車や銃、グラートミサイルなどは、20年間に及ぶプーチン氏の支配下でロシアが石油・ガス輸出で稼いだ4兆ドルもの代金で調達されたものだ。
利権を求めるエリートたちの地位を守り、彼らに豪華なヨットやナイトクラブ、カリブ海の島国のフロント企業などを与えたのも、代議員制の政治を窒息させ、プーチン氏を誇大妄想に耽らせたのも、天然資源による収益だった。
ロシアは世界全体の石油・ガス・石炭輸出の10~25%を供給していることから、ロシアの威圧に弱い国は欧州を中心に数多く存在する。
こうした国々にとって、ウクライナでの戦争は衝撃であり、原油の掘削装置よりも太陽や風、原子炉への依存度が高いエネルギーシステムを立ち上げる緊急性が高まっている。
しかし、そのような新時代になればエネルギー危機や独裁国家の呪いから容易に逃れられるなどと勘違いしてはいけない。
戦争勃発で市場が大混乱
この数週間のエネルギー市場のカオスが消費者の懐を痛め始めている。
米ロサンゼルスのガソリン価格は史上初めて1ガロン当たり6ドルを突破した。トレーダーたちの予測によれば、ロシアへの制裁が効果を発揮するにつれて欧州ではディーゼル油が不足する。
ドイツはロシアからのガス供給の途絶に備え、次の冬に天然ガスを配給制にする用意を進めている。アジアでは、石油輸入国が国際収支への打撃を覚悟している。
需給が逼迫している市場では、ショックの吸収は容易ではない。
原油市場では先日、中央アジアから黒海につながるパイプラインが悪天候のせいで損傷し、イランが支援する武装組織「フーシ派」がサウジアラビアのエネルギー施設を攻撃したことを受けて、価格が1バレル122ドルに急伸する場面があった。
世界各地の政府が即座に見せた反応は、どれほど環境を汚染しようとも、どれほど自分たちのプライドが傷つこうとも、化石燃料の調達を急ぐことだった。
世界最大の石油会社サウジアラムコは西側諸国に促され、投資額を年間400億~500億ドルに引き上げる。
米国のバイデン政権がベネズエラの独裁者ニコラス・マドゥロ大統領におべっかを使う場面もあった。
ひょっとしたら、2005年に世界の原油産出量の4%を占めていた同国からもっと石油を入手しようとしたのかもしれない。