軍事侵攻を受けて、ニューヨーク市場では株価が大きく値下がりしている(提供:Allie Joseph/NYSE/新華社/アフロ)

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて大きく下落している各国の株式市場。深刻な地政学リスクに晒されている欧州もユーロ相場が値を下げるなど深刻な影響を受けているが、実はユーロ圏の実体経済はそれほど悪くない。

 もっとも、欧州中央銀行(ECB)にとっては、底堅い実体経済と改善し始めた雇用市場、そして上がらない賃金は頭痛の種でもある。3月10日のECB理事会を前に、ユーロ圏が直面している問題をみずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏が解説する。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

雇用・賃金情勢は大幅に改善しているユーロ圏

 ロシアによるウクライナ侵攻という地政学リスクを背景として大きく値を下げるユーロ相場とは対照的に、ユーロ圏の実体経済は底堅さを増している。

 3月3日に公表されたユーロ圏1月失業率は6.8%と前月の7.0%からさらに低下し、統計開始以来の最低値を更新した。また、失業者数も前月比▲21.4万人の1123万人と9か月連続で減少している。既に、失業率および失業者数のいずれで見てもパンデミック以前よりも改善が進んでおり、その傾向には勢いも感じる。

 図表1に示される通り、パンデミックを受けた雇用市場への影響は甚大なものであったが、その水準だけを見れば、欧州債務危機ほどではない。ユーロ圏史上、雇用市場の最悪期は2013年上半期であり、当時は失業率が12.2%、失業者数は1950万人超という水準にあった。それは数字だけを見れば現在の2倍弱である。

 本来、これほどの勢いで雇用市場の改善が続けば賃金の騰勢に反映されても不思議ではないが、この点は抑制された動きが続いている。

【図表1】