ロシア、屈辱の30年

 なぜマクロン大統領やショルツ首相が積極的に仲裁に乗り出しているのか。

 欧州大陸と海を隔てて位置するアメリカ・イギリスと、ロシアやウクライナと同じ欧州大陸に存在するフランス・ドイツとでは、大陸内での有事に対する危機感で大きな温度差があるからだ。欧州大陸とは海で隔てられている米英の地理的条件が、陸続きで国境を容易に越えられる国々とは安全保障に関する環境が全く異なる。歴史も違う。

 私は、若い頃、ヨーロッパ諸国に留学し、現代史、とりわけ安全保障史の研究を行い、最近では一般向けに『ヒトラーの正体』や『ムッソリーニの正体』を公刊したが、アメリカ人の欧州理解の浅薄さに閉口することがよくある。今回のバイデン政権の対応も、歴史に対する無知が露呈しているようで、危うさを感じている。

 ウクライナ問題を理解するためには、現代史の様々な局面から教訓を得る必要があり、戦争を回避するための政治の技術が求められている。マクロンやショルツはそこを理解しているのだ。

 なぜロシアが、ウクライナのNATO加盟を絶対に許さないのかは、1月22日に本コラムで解説した(「工作員も暗躍、ロシアのウクライナ侵攻が秒読み段階」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68547)が、背景にはソ連邦解体以降のロシアにとっての屈辱の歴史がある。

 米ソ冷戦に勝利したと有頂天になったアメリカは、冷戦の敗者への配慮を忘れてしまったようである。ゴルバチョフ元ソ連邦大統領は、「アメリカは傲慢かつ自信過剰になった」と批判し、「『勝者』は新たな帝国を作ることを決めた。そこからNATO拡大という考えが出てきた」と述べている(「ロシア通信」、2021年12月24日)。