1月23日に京畿道で遊説する李在明氏(写真:REX/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国大統領選挙の情勢がめまぐるしく展開している。

 与野党候補の一方がリードを広げても、次の週には形勢が逆転し、逆にリードを広げられるといったパターンが繰り返されている。もっとも、韓国に大統領選挙は何が起きるか最後まで予想が難しいとされる選挙の一つだ。過去にも、2002年の選挙では、当初は泡まつ候補と思われていた故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が終盤に一気に形勢逆転、大統領に昇りつめた。前回の大統領選挙でも、途中までは安哲秀(アン・チョルス)氏が優勢だったが、投票日の約3週間前に行われたテレビ討論会でライバル候補の追及にうまく答えることができなかったことをきっかけに失速、落選した。

 それでも、今回ほど予想が困難な大統領選はないだろう。今回の選挙では与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補と最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補の対決に、「国民の党」の安哲秀候補が絡むという構図で展開している。そして有力視される李在明、尹錫悦両氏ともにスキャンダルを抱えており、そのスキャンダルのダメージをどちらがより多く受けるのかが焦点となりつつある。要するに、有権者も「どちらがより優れた候補か」ではなく、「どちらがより悪くないか」という視点で候補者を選ぶ選挙になっていると評されている。

 国内に問題が山積している韓国の大統領を選ぶ選挙で、未来を託せると思わせてくれる候補者がいないという事態は、韓国国民にとって幸せなことではない。

北朝鮮のミサイル挑発になおも「静観」

 韓国の大統領は、その範とする米国の大統領制よりも国内で絶対的な権限を持つ。誰が大統領になるかで韓国の運命は大きく変わってくる。

 特に、北朝鮮が今年に入って既に7回のミサイル発射を行い、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が核実験とICBM発射の再開の検討を指示するなど南北間の緊張が高まっている中で、韓国は文在寅大統領の下、北朝鮮の挑発に無抵抗で、安全保障が弱体化している。

 また、良質な雇用の減少、不動産価格の高騰によって、国民、特に若者の希望は急激に失われている。合計特殊出生率が0.84まで低下したことが、若者の諦めを物語っているのだろう。