キューバ危機期との相似性

 ロシアとNATOの間にある中級国家はベラルーシとウクライナのみであり、プーチンにとっては、この2国まで敵陣に追いやるわけにはいかないのである。前者はルカシェンコ大統領の親露政権であるが、後者のゼレンスキー大統領はNATO加盟を模索しており、それが今回の紛争の原因となっている。

「NATO不拡大」を求めるロシアと「加盟するかしないかはウクライナの自由だ」と言うアメリカとの間で何らかの妥協が可能なのか。ロシアの主張をアメリカが認めれば、「第二のミュンヘンの宥和」だという批判が巻き起こるであろう。

 しかし、同じような事件が1962年秋に起こっている。キューバ・ミサイル危機である。米ソ冷戦下の当時、アメリカはソ連がキューバにミサイルの発射台を建設していることを確認した。そこで、ケネディ大統領はフルシチョフ首相に撤去を要求し、海上封鎖という強硬手段に出た。

 一歩間違えば、核戦争に至る危機的状態であったが、自分の庭先に敵の核兵器が配備されるのは安全保障上許せないとして、ケネディは瀬戸際策を講じたのである。最終的には、ソ連が妥協し、基地建設を止めて問題が解決したのである。

 今回のウクライナ危機では、アメリカとロシアの位置が逆転している。ロシアの庭先、ウクライナがNATOに加盟し、そこにアメリカの核兵器が配備されれば、数分でモスクワを核攻撃できるようになる。そこで、国境地帯に部隊を集結させ、演習を行い、圧力を行使しているのであるが、これは1962年にケネディが行った措置と同じだというのがプーチンの主張である。したがって、今回はアメリカがロシアの主張を容れるべきだと言うのである。

 ロシア、ウクライナ、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの指導者が、以上のような歴史の教訓から多くを学んで、軍事衝突を回避する方法を編み出せるか否か、残された時間は限られている。