そして、救急搬送された一人暮らしの爺さん
その後、夏なのになぜか長い雨が降り、世の中がオリンピックで湧くようになると、今度はアパートに住む看護師の女性から電話がありました。何でも「住んでいる爺さんが高熱を出してしまった。私はもう仕事に出ないといけないのだが、救急車を呼んでも来ないし、爺さんに家族もいないので困っている」との由。
あのな。私はお前らの保護者でもお孫さんでもないんだよ。忙しいんだ、こっちはと思いながら、「今すぐ行くので、仕事に行っていいですよ」と着替えながら折り返しました。
駅前では、国替えをした自民党の長島昭久先生が小雨の中で街頭演説をしていました。聴衆はゼロ。せっかくいい話をしているのに、何ともご苦労なことです。天下国家の安全保障から通勤通学時間帯に有権者に存在感をアピールするところまで、政治家というのは大変な職業だなと思います。
アパートの前にたどり着くと、目の前の路地に横づけになった救急車の傍らで、救急隊員の人が所在なげに立っています。これは、呼ばれたはいいものの、誰に呼ばれたのか分からなくて途方に暮れていると見た。
声を掛けると、果たして電話をくれた看護師が呼んだものと分かり、大家であることを伝え、合鍵で爺さんの部屋を開けると、ゼイゼイ言いながら爺さんが床で寝ています。おい、しっかりしろジジイ。私もワクチンを打っているとはいえ、さすがにコロナ患者かもしれない人と直に接するわけにいきません。そこで、まだ20代に見える二人の救急隊員に爺さんを任せて救急車に運び込んでもらったわけなんですが、そこからが長かった。
救急車の中で寝かされた爺さんの受け入れ先が見つからないのか、昼飯時を過ぎ、雨脚が強くなり、おやつの時間になってもまだ救急搬送されていきません。私も頼まれていた取引先への連絡やスマホでの原稿執筆、Twitterで馬鹿を煽るなど必要な業務を済ませてなお赤色灯をつけたままの救急車が止まっているのを見て心配になります。
ずっと連絡を各病院に入れている救急隊員の人たち、大変だな、と思います。一つの命を救うために、貴重な時間を削ってここまでやるのか。私も爺さんがここに入居した頃のことを思い出しました。ちょうど奥さんが亡くなって、相続か何かで住み慣れた家を出てお引っ越しをしてきたときのしょんぼり具合は目に焼き付いています。息子さんも引っ越しを手伝いに来てたけど、一緒には住まねえんだな。
そういえば、入居者情報を見返したら息子さん一家の名前がなかったのを思い出します。少し前まで契約していた管理会社が申し出か何かを受けて連絡先を抹消したのかとも思いますが、何があったのだろう。こういう時こそ、頼るべきは家族だろうに。