生活に行き詰まった時にまずやること

 私はね、つくづく思うんですが、人間、カネがなかったり行き詰まったりしてしまうと、ストレスが強くなりすぎて合理的に考えられなくなって、本当にやってはいかんことをやったり、自暴自棄になったり、間違ったことに簡単に手を出すようになるんです。ましてや、相談できる友人がいない、周りにまともな人物も見当たらないとなると、本当に簡単に転落していってしまう。ここから出て行って、どうするというのだ。

 まずは市役所に連絡を取り、住居確保給付金(家賃補助)を申請したいという話をしました。自立支援の相談をすぐにさせてほしいとアポを取ります。いや、私ではなく、私のとこの入居者が。今すぐ本人連れて身分証明書と通帳、その他を持ってそっちに行くからという話をしました。話している間、呆然とする本人にアイコンタクトしますが、急展開でなんだか良く呑み込めていないようです。

 ふと段ボールを見ると、一番上のところに、笑顔の彼と、お父さん、お母さんに囲まれた、穏やかな家族の写真が置かれていました。家財道具を売り払った、最後に価値のあるものが彼の幸せな頃の家族の思い出だと思うと、これはどうにかしてやらんと思うわけです。せっかく生まれてきて、愛情を受けて育って、こんな辛い人生を送る必要もないだろ。

 彼を伴ってアパートを出ると、道すがら、額とワイシャツを汗で濡らした自民党の長島昭久先生とすれ違いました。軽く会釈をしましたが、なんか大変そうだったので呼び止めませんでした。頑張ってほしいと思います。

 いろんな人が住んでいるから、市役所には良くお世話になるし、手続きの中身にも詳しくなります。彼にも、まずはカネがなく所得もないことを証明して家賃補助を受け取り、制度的な自立(生活)支援を受けられるかを市役所と調整した上で、可能であれば生活保護の申請と、失業保険の書類を出すんだよという話をします。

 ちゃんと健康診断を受けて、ハローワークに行って、職業訓練も受けて、応募して面接して、ここで一緒に私と生活を立て直そう。よほど贅沢しない限り、プログラマーならすぐに次は見つかる。再就職先があまりにもブラックだったら相談してくれ──と。

 なぜ大家である私が彼の人生をどうにかしてやろうという話をしているのか分かりませんが、行きがかり上、必要なことは全部やろうよ、できることなら手伝うよ、そして家賃を払ってね、と力説します。本人もようやく事態を冷静に受け止められ、納得したようでした。

 市役所で手続きをし、顔見知りの職員からなぜかお礼を言われ、また世話になったと何度も頭を下げる彼に、「これで美味いものでも喰う足しにしてくれ」と五千円札を渡して別れると、さっきまでクソ暑い日差しが照りつけていた往来も夕暮れになり、奥さん方が買い出しに出る自転車の群れが覆い尽くしていました。