ある日、アパートに作られたバリケード

 実際問題として、行政でもどうにもならないと、最後に頼るのは家族です。行政の対応には自治体職員の皆さんがどう頑張ってもできないことは多くあるからです。

 その家族からすら切り離された人たちが一人ひとり暮らしているのが都下のアパート事情である限り、大家としても向き合わなければなりません。近くの美大に通う学生さんでも、伴侶に先立たれ、乏しい年金で一人暮らししているお年寄りでも、間違いなく一個人の人生には違いないのだから、尊重しなければならないんですよ。

 女の子を連れ込んだ学生さんのアレの声が盛大に漏れて、苦情が大家である私のところに寄せられても知らんがなとしか言いようがありません。

 働き盛りで、私と似たような年代の入居者にもいろんな方がいます。

 例えば、浮気をかまして家を追い出され、多額の慰謝料と財産分与と養育費の支払いとともに離婚をさせられたある企業経営者がいます。再起を図りたいというので温情を見せ、「じゃあうちに来なよ」と言って住まわせてみたところ、10年経過したら立派に自己破産を遂げて生活保護のまま居座っています。黙っていればいい男なんですがねえ。

 皆さん誤解していますが、生活保護の人でもアパートの中で泥酔して大暴れしない限り、お部屋を貸すのは構わないんですよ。生活保護の人には家賃保証があるし、いろんな意味でとりっぱぐれがありませんから。

 でも、そんなことより私としては早く仕事を見つけて、自分の二本の足で立って暮らせるようになってほしいんですよね。顔を合わせるたびにそんな話をしていたら、いつしか私の来訪を察知すると、彼は部屋に閉じこもるようになってしまいました。なんだお前。

 ある休日の朝、そんな彼が泥酔して大暴れをしたという電話を受けて、慌てて見に行くと、アパートの入り口に他の住民たちと正面エントランスでバリケードみたいなのを作って待ち受けているんです。おいやめろ。何してんだよ。ここは東大の安田講堂ですか。