(写真はイメージです/Pixabay)

すべての人の暮らしを一変させた新型コロナウィルス感染症。社会的弱者である障害者はコロナ禍をどう暮らしているのだろうか? 精神障害者の支援活動を続けている進藤義夫氏に、讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が現状を訊く。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第48回。

 4月25日、3度目の緊急事態宣言が4都府県に発出されました。変異ウイルスの勢いが増す今、人流を減らすためにはやむを得ない措置だと思います。

 しかし、緊急事態宣言により、多くの人びとや業界が再び大打撃を受けることになるでしょう。私は常々、「一部の誰かにしわ寄せがいくことなく、皆で苦労をシェアする社会であるべき」と訴えてきました(第33回第40回参照)。今回は社会的弱者である障害者を取り上げます。誰もが苦しい時ですが、障害者支援活動を行っている進藤義夫さんの声にぜひ耳を傾けてください。

進藤 義夫(しんどう・よしお)氏
特定非営利活動法人・障害者支援情報センター理事長。心理系大学院時代から設立にかかわった若者対象の精神障害者共同作業所「T&E企画」に11年勤務。途中から世田谷区にて様々なネットワーク活動(企業団体と連携した就労援助・作業所見学ツアー等)を展開。2001年にNPO法人障害者支援情報センターを設立。以降、現在に至るまで、生活保護受給者への退院促進事業から、企業団体と連携した就労支援まで、幅広い障害者支援活動を行っている。精神保健福祉士・臨床心理士。

コロナだからこそ支援しようという企業も

讃井 まず、進藤さんがどのような活動をされているのかから教えてください。

進藤 身体障害、知的障害、精神障害などの障害のある障害者の中で、私が支援しているのは精神障害者です。ひとくちに支援といってもさまざまありますが、大雑把に言えば、『つなぐ仕事』を私はしています。

 

 具体的には大きく3つが挙げられます。(1)病院から退院する際の退院支援(住まいを探す、作業所を決めるなど)、(2)地域で暮らすための手助け(作業所での支援など)、(3)障害者と企業の橋渡し(企業の啓発、企業から作業所に作業を提供してもらう、就労支援など)、の3つです。

讃井 新型コロナ感染症によって、それらの仕事にはどのような影響がありましたか?

進藤 まず(1)についてですが、退院の手伝いは本当に大変でした。精神科の病院は、たとえば内科と比べればコロナウイルスは持ち込まれにくいと思うのですが、いったん入り込むと一気に病棟全体に蔓延してしまう恐れがあります。そのため、退院支援についても面会制限など非常に厳しい制限がかかりました。住まい探しのために不動産屋に連れて行きたくても制限されるとか、朝から夕方まで外出したいのに「外でご飯を食べないでください。コンビニ等にも寄らないでください」と言われたりといったようにです。あるいは、グループホームなどの施設を見学したくても緊急事態宣言中は見学禁止で、さらに宣言が解除されると一気に応募が殺到して入れなかったということもありました。

 ただ、1年経って対応も落ち着き始めていて、退院のためだったら面会が許可されるようになり、短時間であれば外出同行もできるようになってきました。少しほっとしているところです。

(2)に関しては、地域の作業所によっては作業が大幅に減ったところがあります。たとえば、イベントの開催が難しくなったので即売会などのイベント系の作業が減りましたし、喫茶店など飲食系の作業所も軒並み打撃を受けました。それに対して、行政は比較的早い段階から「在宅支援」という枠組みを作ってくれました。

 作業所は、障害者1人が1日来所すると何円という形で国保連(国民健康保険団体連合会)から報酬が入ることで経営を維持しています。医療における医療点数のようなものです。感染対策の観点からは作業所に来所せずにステイホームしてもらったほうがいいわけですが、それでは作業所にこの報酬が入らなくなってしまいます。そこで、いくつかの条件をクリアすれば利用者が来所しなくても来所と同じ扱いとなり、報酬を得られる「在宅支援」という制度が特別に設けられました。経営的に厳しくて相当苦労はしていますが、この「在宅支援」によってなんとか乗り切れた作業所が多かったのではないかと思います。

讃井 行政はきちんと手を打ってくれたわけですね。(3)の企業との橋渡しについてはどうだったのでしょうか。多くの企業が自分のことで精一杯になる中で、苦労も多かったのではないですか?

 

進藤 やはりコロナによって企業の経済活動が縮小していることは肌で感じました。しかし一方で、ありがたいことにコロナだからこそ支援しようという企業も現れました。ですから、企業とのお付き合いでいうと、捨てる神あれば拾う神ありといった印象です。

障害者の感染の実態

讃井 障害者の感染の実態についても教えてください。作業所で感染された方は出ましたか?

進藤 知的障害者の施設でクラスターが発生したといった報道をいくつか目にしましたが、私が仕事をしている世田谷区の作業所では、ポツポツと感染者は出たものの、クラスターは発生しませんでした。病院を退院して作業所に来る利用者の皆さんは、ものすごく気を付けています。職員は当然細心の注意を払っていますが、利用者はそれ以上といってもいいかもしれません。施設内には「消毒、手洗い、マスク」といった貼り紙がいたるところに貼られていて、それを職員が励行しないと、「あの人、マスクから鼻が出ています」と利用者に怒られるといった具合です。一般の会社以上に感染予防策はとられているのではないかと思います。

讃井 私は埼玉県のクラスター対策班のお手伝いをすることもあるのですが、認知症や知的障害者がメインの施設ではクラスターが発生しています。実際に指導に行って、「マスクをつけてください」とお願いしても、利用者が言うことを聞いてくれない場合もあるので、クラスターが発生するのもやむをえないのかなとも思います。ただ、ウイルスを施設内に持ち込んだのは職員だったというケースが多いんです。家庭内感染も同様ですが、外でウイルスをもらってこないように気を付けてほしいですね。

 

進藤 これは精神科の病院の話ですが、措置入院の際に暴れている人を連れてきた警察官がじつは感染していて、それで病棟に感染が広がったという事例もあったと聞きます。

「正しく理解して偏見を減らしてほしい」

讃井 もうひとつ伺っておきたいことがあります。それは医療従事者の偏見です。精神障害者の方が何らかの身体的疾患に罹った場合、状態によって急性期病院への入院が必要になる場合があります。しかし、精神障害者が新型コロナ感染症に罹り、精神科病院や県の調整本部から転院をお願いしても、「障害のある方は受けません」といって断られてしまうケースがあるようです。

進藤 残念ながら医療従事者の偏見はあると思います。ただし、それはコロナ以前からです。ある精神障害者が、腹痛を訴えて夜中に病院に行った時のこと。精神科に通院していると言ったところ、「腹痛は気のせいでしょう」という対応をされて家に帰されたそうです。その人は、翌朝亡くなってしまいました。

 もちろん、偏見を持っているのは医療従事者だけでなく、多くの一般の方々も同様だと思います。私自身、初めて精神科を見学に行った時には、この中で恐ろしいことが行われてるんじゃないかと思って恐る恐る入っていきました。最初は誰にでも偏見があってもおかしくはないと思います。でも、その偏見は減らしていかなければなりません。そのためには、病気や障害がありながらも元気で働き暮らしている人の素の姿を見てもらうことや発信することが大事だと考え、私たちは活動を続けています。いろいろな機会を作って知ってもらい、会ってもらい、付き合ってもらい、それによって正しく理解して偏見を減らしてほしいのです。

 ところが、そういう場に医師はなかなか来てくれません。忙しいというのもあるのでしょうが、それだけではなくて、「わかっている」という自負やプライドもあるのではないかと思います。でも、本当に理解しているのでしょうか。医師の偏見を強く感じるシーンにしばしば遭遇します。

讃井 非常に耳の痛い話ですが、多くの医師が自分の専門外に関心がないことによる弊害を感じます。精神障害者は精神科の医師に任せればいいと考えているのかもしれません。そういう医師は、感染症疑いの精神障害者が来ても恐くて診療できないのでしょう。

 

進藤 とはいえ、最近はずいぶん障害の世界と一般の世界が近づいてきたような気がします。たとえば、障害者と職員とボランティアと企業経営者が一緒になって、障害者が作業所で作った商品を売るイベントもできるようになってきました。自然な形で触れ合えるそのような場を、コロナが落ち着き次第どんどん作っていくつもりです。皆さんにもぜひ、障害者の暮らしぶり、働きぶりを知っていただき、偏見を減らしていただきたいと思います。

讃井 貴重なお話をありがとうございました。

   *   *   *

「一番大切なことは、相手のことを知ろうとすること。自分のことを知ってもらえると嬉しいじゃないですか。それは障害者でも健康な人でも同じだと思います」と進藤さんは強調されていました。私たち急性期病院の医師は、興奮した患者さんや、せん妄の患者さんを診療する機会が非常に多いのですが、その際には、患者さんの世界に入って同調し、同じ目線になるよう心がけると、コミュニケーションが成立して良い診療につながります。それと似ていると感じました。

 本連載の読者には医療従事者も多いと思います。私も含めて新型コロナ感染症との戦いで余裕を失いがちですが、広い視野を失うことなく、自分は何ができるかを考え、実践していきたいものです。

4月10日対談 構成・文/鍋田吉郎)

※ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授、進藤氏個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

◎讃井 將満(さぬい・まさみつ)
自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長
集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。

◎鍋田 吉郎(なべた・よしお)
ライター・漫画原作者。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。